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女性コンサルタントが語る「一人ひとりが輝く組織とは」シリーズ
第1回:"集団天才"チームをつくろう
シニア・コンサルタント 庄司 実穂
◆はじめに
本コラムは、JMACの女性コンサルタント6名が自身の経験にもとづき、女性活躍やダイバーシティの観点も含め、これからの組織マネジメントに関する考えをお届けします。
◆“ひとかど”って何だろう?
私が社会に出た1991年は、まだまだ「コンサルティングは特殊な業界」という認識の時代であり、コンサルタント職に就いた時には、「同期の倍頑張れよ」「試金石だね」など、心からの激励に対してモヤモヤしたり、「みなと同じくフツウに頑張ればいいはず!」と息巻いたりしたのをよく覚えています。
当時の部門長との対話で、「ひとかどのコンサルタントを目指していれば、人事や昇格などはその道の途中にあったようなものだから、あまり大げさに考えない方がよい。それよりも、あなたの“ひとかど”はあなたにしか決められないものだよ」フツウではだめ、頑張りの度合いの話ではない、自分が何者でありたいかの意志を持て、ということを諭されました。今もなお、厳しい問いであり、支えでもあります。
◆集団天才による価値創造とは
また、JMACには、設立当時から“集団天才”という言葉があります。入社時、「コンサルタント一人ひとりは凡人だが、組織力を発揮すればいかなる課題も解決できるのだ」というような解説を受け、「なんだかちょっと格好悪いコンセプトだな」と感じたものです。
ある時、漢方に触れる機会があり、それは近代西洋医学とは異なり、複数の生薬の調合を重要視し、単独で処方することはほとんどないことを知りました。基本は「君・臣・佐・使」という4役の調合であり、君は効用の中心薬、臣は君の効用のサポート、佐は副作用をおさえて薬効を調整し、使は飲みやすくして処方全体の調和をとるそうです。さらに別の目的の処方になると、君薬を担っていた生薬が臣薬や佐薬になるといった具合に、各々の役割が固定しているわけではなく、目的と組み合わせの中でつくられる役割だということです。また、生薬はほとんど樹木や草花などありふれた植物でありながら、未知の特長もあり、しかも、成分を抽出するだけでは薬効が働かず、一定時間、一緒に煮出すことで特別な薬効が生まれるそうです。
なるほど、単体ではみかんの皮に過ぎない自分を知り、生姜の根っこに過ぎないと思っていた相手のポテンシャルを知り、日々、お互いに研ぎ澄ます努力、交じり合う努力があってこそ、ひとかどを目指す者同士が共存する意味であり、新たな価値づくりを可能にするものなのだと理解できました。
◆新たな価値づくりを目指すあなたの組織は輝いていますか?
長らくR&Dの現場で仕事をしてきて、比較的、各人の考えや個性をアピールしやすい環境があると感じます。専門職制度やテーマ提案の仕組み、15%ルール、学会発表などは多くの組織で整備されていますし、「イノベーションを目指す組織にダイバーシティは必要条件」というメッセージは、もはや当たり前のものになりつつあります。
ところが、女性活躍という点だけみても、R&D組織が全社のモデルとして輝いているかというと、必ずしもそうではなさそうです。例えば、経営幹部とお話しすると「リーダーを担えるはずなのに辞退されてしまう‥」、女性研究者とお話しすると「やってみたい気持ちもあるけど、上司だって、本心では私が適任とは思っていないはずだから‥」、紳士的な上司は「本人が辞退しているのだから、それ以上は‥」とお互いに踏み込まず、遠慮や誤解を抱えているように見えます。
本人が「やるからには自分で全てやり抜ける力がなければ‥」と気負い過ぎたり、「期待を裏切るかも、批判されるかも、だったら手をあげない方が‥」とネガティブに妄想したり、子供時代から築いてきた強い責任感やプライドが囚われとなり、本音に蓋をして、知らず知らずのうちに自分の可能性を狭めているかもしれません。
この種の話は、研究所や女性に限ったことでは全くなく、専門性や自立性が強く求められる組織ほど、過分なたくましさを期待したり、個人の考えを尊重し過ぎたりして、お互いに心理的な距離をおいてしまうということが起きがちではないでしょうか。
◆「個人仕事」を超えて、集団天才チームを目指そう
上述のような心理的距離感問題は、その人の思考特性や人間関係によるものだけではありません。昨今、長期的に能力や文化を育む組織・チーム軸のマネジメントよりも、短期的な成果を担う業務・テーマ軸の方が優先されがちであり、加えて、人事制度や業務のありようをみても、多くの人の日常業務が「個人」になりやすいという環境も拍車をかけています。
そして、誰もが一人の力の限界を知りながら、集団の力を高めることには具体的には取り組めていない。画期的に高い目標や新たな顧客価値を実現するためには、自分たちのケイパビリティを高める取り組みが連動してあるべきですが、残念ながら、第一線ではほとんど議論されていないのが実状です。
ここに大きな飛躍の余地があります。例えば、「トップが示すビジョンやメッセージでは抽象度が高すぎる」という声はよくありますが、自分たちを主語にしたビジョン、役割期待、能力課題をチーム全員でとことん議論したことはあるでしょうか。事業やテーマではなく、組織・チームをどう進化させていきたいかを一から描こうとすると、「はて、自分たちは何の集まりなのか。何を目指し、そのために何を獲得する必要があるか」といった問いが生まれ、これまで個人の内面にあったことの議論が始まります。
これは「上位の目的・目標を理解し、自分の業務・テーマの意味をきちんと理解する」こととは異なり、少々大げさに言えば、「組織革新構想」です。このチームで共に磨きあったり、交ざり合ったりする意味を共有した者同士が、「自分の仕事を通して、このチームには何を持ち帰ることができるだろうか」「自分の挑戦には誰の力が必要になるだろうか」という具合に、各自の意志や頑張りを元手にして、お互いの成長や貢献のチャンスを広げるものです。若手も人や組織の成長をしかける力を養うことができ、将来の自分、現在のチームリーダーにとって大きな助けになります。
◆ムダな時間を愉しめる組織文化を育もう
事業、業務、成果、あるいは、自分自身を考える機会はあっても、「自分たち組織」を主語にした議論は意外と経験機会が少ないものです。また、論理的・分析的に正解を導くものではないため、しばらくお互いに戸惑い、混乱し、価値観がぶつかりあう苦しい時間を過ごすことになります。その状況を想像し、誰しも周囲に変化をしかけることに躊躇するわけですが、実際には飛び立って地上に追突するツバメ一家はそういないのです。
ぜひ幹部のみなさんからも、薬効成分を煮出す時間、視界が開けるまでの混沌とした議論を受け入れ、一見無駄に見える大事な日常習慣を啓発していただきたいです。自分とメンバーの可能性に気づくことができれば、そう遠からず、一人ひとりが自分らしい貢献や成長を実感し、輝くコンステレーションをいくつも生み出せる組織に進化できるはずです。
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>> コラム 次号(第2回:「本当はどうしたいか」が、個性を輝かせる 執筆:チーフ・コンサルタント 大崎 真奈美)はこちらから
コンサルタントプロフィール
R&Dコンサルティング事業本部 シニア・コンサルタント
庄司 実穂(しょうじ みほ)
「顧客の顔が見える研究・開発」、「自ら提案するプロアクティブな集団」、「一人ひとりの能力を最大化するマネジメント」を目指し、イノベーションに挑戦するみなさんの革新活動のパートナーとして現場で奮闘しています。