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プロフィット・デザイン2.0 ~持続的な利益をデザインする~
第3回:顧客プロセスとプロフィット・ステップ
シニア・コンサルタント 横山 隆史
■はじめに
初版から10数年の時間が経過しましたが、たくさんのクライアントから支持を頂いており、また昨今の厳しい社会・経済環境に対応していくためには必要不可欠となる考え方だと自負しております。
今般、社会・経済環境の変化に合わせて若干の加筆・修正を行ったものを、本コラムにて計8回にわけてお届けします。
■アップルだけにとどまらない
第2回コラムでは、アップルを事例として、利益を持続的に生み出す “しくみ” をご紹介しました。ですが、「それはアップルだからできたこと」 と思われているかもしれません。
しかし、「顧客は購入した後、何をするのか?」、もしくは 「購入の前後に何をするのか?」 という着眼で同様に利益を生み出している企業があります。
建設機械メーカーのコマツは、自社の建設機械にGPSを取り付け、そのGPSを通じて建設機械の稼働状況を把握するKOMTRAXというシステムを提供しています。GPSを用いて稼働状況を把握することで、タイムリーに修繕・保守サービスを提供するだけではなく、省燃費運転支援などといった改善提案にも取り組んでいます。さらに現在に至っては、このKOMTRAXを基礎としながら、「スマートコンストラクション」と銘打って、現場を総合的に囲い込むサービスを展開しています。
コマツの着眼も、アップルと同様に購入後です。建設機械は初期の導入コストよりも運用コストが非常に高くなります。修理・保守費用、燃料費、オペレータ費は本体価格の3倍にもなると言われています。逆を言えば、本体の3倍にものぼる市場が本体を購入した後に控えている、ということです。その需要を取り込むために、稼働情報を収集できるこのシステムが一役買っているのです。現在このしくみは、スマートコンストラクションとして更なる進化を遂げています。【図4参照】
このような取り組みは大企業だけに限りません。また、決してITを必要とするものでもありません。年商20億円に満たない喜久屋という企業は、首都圏を中心としてクリーニング業を営んでいます。この喜久屋は、冬物を中心として衣類のクリーニングと保管を一体として提供することで、リピート率80%という驚異的な数字を挙げています。これもやはり顧客の購買後を的確に捉えたサービスです。クリーニングをした後は衣類を保管することになりますが、都内の狭い住宅事情を考えれば、「保管は外へ」 という潜在的なニーズがあります。つまり、クリーニングと一体で保管というサービスを提供することで、顧客の利便性を高めているのです。いったん外で保管した衣類を再び自宅で保管しようとはなかなか思わないものと想定されます。部屋が狭くなってしまうのですから。
これらの事例から、利益を生み出すための “ひとひねり” がご理解頂けたのではないでしょうか。クリーニングを例にするならば、従来型の発想は 「よりきれいに、より早く、より安く」 ということになります。しかし、どのクリーニングでもきれいであり、早く、安いのです。ここで勝負しても競争に勝つことはできないでしょう。喜久屋のように 「クリーニング→保管」 という “ひとひねり” があるからこそ、リピート率80%が実現できるのです。
■顧客のプロセスを捉え、連鎖的に価値を提供する
連鎖的に価値ある製品・サービスを提供するためには、ぜひ 「顧客の購買後」 をイメージして頂きたいのです。つまりは顧客のプロセスを捉える、ということに他なりません。
また事例をご紹介します。典型的な事例ですが、家庭用のプリンタをイメージして下さい。【図5参照】
ごく当然のことではありますが、顧客にとってはプリンタを購入すること自体が目的ではありません。プリンタを購入することで印刷をしたいのです。顧客は、プリンタを購入して印刷します。時間が経過すると用紙・インクが切れるのでそれを補充します。この 「購入する→印刷する→補充する」 という一連の流れが顧客のプロセスとなります。
プリンタの会社はこの顧客のプロセスに対応すべく、一連の製品を連鎖的に提供していることは、すでに多くの方が気付いているのではないでしょうか。プリンタは性能・機能に比して割安です。一方で、用紙やインクは割高に感じてしまいます。さらに、インクのカートリッジは規格がプリンタ個々で異なっており、他のものにスイッチすることがほぼ不可能です。プリンタの会社は、プリンタをいったん保有してもらえば、その後に用紙やインクの需要が発生することに気付いています。そのため、意図的に導入コストは安く設定し、必然的に発生する用紙・インクの需要で収益獲得を図ろうとしています。
このような考え方で持続的に利益を生み出しているビジネスは数多くあります。スマートフォンも典型的な例です。顧客がスマートフォンを購入すれば、そのあとに必ず通話やインターネット、アプリ等の利用が見込めます。スマートフォンの販売台数が増加すれば、確実にその後には利益が待っているということになります。かつては0円でスマートフォンを販売していたことからも、容易に理解できるのではないでしょうか。
クレジットカードや電子マネー、QRコード決済も同様です。クレジットカードを顧客に持ってもらい、決済を現金からクレジットカードへ変えていけば、加盟店から利用に応じた手数料が確実に、持続的に入ってくるようになります。
自動車業界も現在では同じような傾向がみられます。既に自動車メーカーは、自動車の製造・販売自体で利益を上げているわけではありません。所有する際にはローンもあれば、保険にも入りたくなるでしょう。また自動車に乗り続ければ部品の交換や修理も必要となります。自動車メーカー大手の決算書をみればお分かり頂けますが、多額の金融債権を抱えており、ファイナンス会社かと思われるほどです。また、自動車ディーラーも部品交換や修理に注力しており、現在では売上の約半分を支えていると言われています。
これらを抽象的にまとめると、【図6】のようになります。
顧客は、ある目的を達成するために、プロセスを踏むことになります。目に見える顧客の姿・行動は、プロセスでしかありません。ですが、顧客は何のためにプロセスを踏んでいるのか、その目的をじっくりと見定める必要があります。
そして、顧客のプロセスを捉えたならば、次はそのプロセスに対応すべく、連鎖的に価値提供できないかを考えます。この提供側のステップをプロフィット・ステップと呼ぶこととします。
多くの企業は往々にして、顧客のプロセスの一つにだけに関わり、価値提供しているにすぎません。しかし、それでは “単品売り切り” にとどまってしまい、顧客との持続的な関係構築とはなりません。顧客のプロセスに呼応して、連鎖的に価値を提供することによって、持続的な利益を生み出す可能性が高まるのです。
>> 「第4回:プロフィット・デザインを成立させる3つの要素」はこちら
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コンサルタントプロフィール
経営戦略事業部 シニア・コンサルタント
横山 隆史(よこやま たかし)
政府系金融機関で、営業・審査業務を経験し、当社入社。
前職での経験を活かしてアカウンティング・ファイナンス等の分野で強みを発揮しながら、経営戦略、マーケティング等へ領域を広げてきた。
新規事業検討、ビジョン・中期経営計画策定、ビジネスモデル構築、企業/事業再生等といった分野で実績がある。
近年においては、新たなビジネスモデルの概念「プロフィット・デザイン」の普及に取り組むと同時に、次世代の経営人材育成支援に取り組んでいる。