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女性コンサルタントが語る「一人ひとりが輝く組織とは」シリーズ
第3回:一人ひとりに向き合い、伝えるべきことを伝える
チーフ・コンサルタント 皆越 由紀
◆ 今、この時にどう働きたいか/その選択で果たす役割を相互に納得できているか
1997年、私は金融系SIerへ入社しました。山一證券廃業の頃、就職活動は決して楽ではありませんでしたが、2000年問題を前にS.E.職採用は比較的多かったことを覚えています。
開発したプログラムは、夜中に本番環境で最終チェックを行います。ある時、上司から「夜中のトラブルは別担当に任せるか、自分で対応するかどうしたい?」と聞かれました。
当時、男性にはそのような相談はなく、選択の余地もありません。私自身は「自分が書いたプログラムなので、自分で確認します」と、よく考えもせず後者を選びました。ただ、その質問は「単なる働き方」だけでなく「任される仕事」や「処遇」の分かれ目でもありました。「あの質問は、そういう意味でもあったのか…」と気付かされたのは、もっとずっと後のことです。
結果的に「目の前の仕事は、全体のどこに位置付いているのか/各組織はどう関わり合っているか/収支はどう成り立っているのか」など視野を広げる機会に恵まれました。興味関心はさらに高まり、コンサルタントへの転職に至る今があります。
一方、変化するライフスタイルの中で「今、ここで前者を選べたなら…」と思ったことは何度もあります。ただ当時は、「その道を選ぶのは簡単だが、戻ることは簡単でない」と思っていました。
男女問わず「どう働きたいか/どういう働き方であれば、自社・組織に貢献し続けられるか」は、その時々の本人の状況・環境で変わります。変化が生じやすい女性は特に、自分でも先のことはよみづらく、「今時点でどう思っているか」にしか責任は持てません。しかし、だからこそ「今、できることは、できる限り取り組もう」という気持ちも持っています。
本人の思いもあり、一時的にその選択を取る(取らざるを得ない)ならば、「何がどう変わるか」に納得し、「その選択の中で、どのような役割を担い、最大限その役割を発揮していくか」を組織全体で共有しておくことが必要です。周囲との共有があってこそ、本人は必要以上の罪悪感を抱えることなく、遠慮してしまいがちなチャレンジにも取り組んでみようと思えることでしょう。
今回は、管理者の方々へ向けて、改めて確認頂きたいことを述べてみます。
◆ 女性をマネジメントすることは難しい? 相手と向き合って話ができているか
営業やコンタクトセンターといった組織を支援していると、管理職の方から「女性は難しい」という相談を受けることがあります。「私も女性ですが…」と返しながら、次のことを伺っています。
①管理者自身が思う働き方・営業スタイルと、その担当者(達)との違い
②その担当者の行動・スタイルの問題点
③その担当者が②の行動・スタイルを取る背景・理由(仮説)
④③の背景・理由を是正・取り除く余地
⑤④が困難な場合の次善策
概ね①②はすぐに挙がりますが、③以降は、その担当者とどれだけコミュニケーションが取れているかで大きく変わります。もちろん③の聞き出しには難しい面もあります。しかし、だからこそ当人と話すことが必要なのではないでしょうか。当人の誤解もあれば、当人だけでは解決しないことも多いからです。
◆ 上位者自身に固定観念はないか・同じ企業人として恥ずかしくない姿勢を示せているか
また、敢えて厳し目に書きますが、以下のような側面はないでしょうか
1)上位者自身の描く働き方や営業スタイルの押し付けになっている(寄せる合わせる以外は否)
2)その仕事にやりがいや面白さ・楽しみを感じさせられない(伝えられない)
3)必要以上に気を遣い、言うべきことを言えていない(嫌われたくない)
4)「担当者が自己解決すべきこと」である/やる気・変化が見られないので諦めた(放任)
5)自社の仕組み・制度変革に関わるため、強く言わない(積極的に解決へ動くのは面倒)
もちろん、担当者自身にも問題はあるかもしれません。ただ、上位者の奥底にある意識や行動・伝え方にも問題があるように思います。今回は女性をマネジメントする男性上位者で書いていますが、女性上位者による「男なのに」という発想も同様です。
上位者の奥底にある意識は、本人よりも担当者の方がよく気付きます。決して、マネジメント対象が異性かどうかではありません。相手と1:1で話し合う機会の多少の問題であり、少ないほど、お互いに都合よく解釈してしまいがちです。遠慮や必要以上の勝手な配慮が相手の誤解を招き、その間違った解釈が他のメンバーに連鎖してしまうこともあります。
上位者として、担当者の置かれている状況や、そのような行動を取る理由、担当者自身がどうしたいかという意思をきちんと相手に確認し、その上で
・上位者のやり方がより良いならば、担当者へその理由・考え方を伝え、納得させられているか
・逆に同じ結果が得られるならば、その担当者らしい活動を受け入れられないか
・担当者がより動きやすいように、上位者から相手へ働きかけられているか
そのような行動が取れてこそ、上位者に相談しようと思うものです。
◆ (単純作業者扱いせず)業務の目的や全体像をしっかり伝え、成長を促すことができているか
営業支援・内勤事務(見積/受注・出荷手配/請求/問合せ受付など販売管理に係る事務)組織は、縁の下の力持ち的存在です。近年は営業力強化の一貫で、インサイド・セールスとしてのさらなる役割発揮も期待されています。しかし、担当者は大きく2パターンに分かれ、そのメンバー構成割合で成果が大きく変わります。
①ルールに則り、目の前にある業務に全集中している人
②企業全体のプロセスや業務の目的を理解し、関連各者とうまく事前調整を図りながら進めている人
大きなトラブルもなく定常運用ばかりであれば、①も処理効率よく進みます。しかし、各顧客のニーズに合わせようとするほど、関係者との臨機応変な対応が求められます。複数案件を同時並行で進めることも増え、関係者間の中継ぎとして都度対応に追われるようになります。
一方、②では「最終ゴールは何か」から逆算し、「なぜそれを行う必要があるか」理解した上で、「都度、複数案件をどういう順番で進めることがベストか」を考え動くことができます。受付時の前さばきや、引き継ぎにも手戻りがなく、各者が仕事を円滑に進めることができます。
従来、当該組織の要員育成は、OJTに依存してきました。数々のトラブル経験を経て、勘のいい一部の人だけが、自力で②のスキル・ノウハウを習得してきました。さらなる役割発揮を期待するならば、早期に②の人材へと導く仕組みが必要です。担当者自身の成長実感は、企業全体の競争力にもつながることでしょう。
◆リーダーおよびリーダー候補者に対し、マネジメントとは何か・手法を伝えられているか
先の営業支援・内勤事務組織の場合、リーダーは経験ある・難易度の高い案件にも対応できるスペシャリストから任命されることが多いようです。確かに業務遂行スキルは、あるに越したことはありません。しかし、「マネジメント」という観点で業務・組織を捉えさせる機会がないまま、リーダーを任せてしまうと誰も幸せでない状態を生んでしまうこともあります。
例えば、当初からリーダーを目指していた人は、周囲のリーダーを見る時も「自分ならば、こう動く」と思いながら成長します。一方、「先のことは分からないが、今、与えられている目の前の仕事には一生懸命取り組もう」としてきた人は、リーダーを狙っていたわけではありません。「マネジメントとは、担当者の育成・実務のQAサポートが全て」と誤解していることもあります。そのため、役割の違いやマネジメントに係る術を伝え、「やってみよう」思ってもらえるレベルにまずは引き上げる必要があります。
また、個人としてはうまくやれてきた・責任感が強い人も多いため「自分ではない、"相手"や"周り"を動かす」ことに悩み、相談できずにいることもあるようです。「ひとりで抱え込んでいないか/困っていないか/◯◯は、具体的にどう進めようと考えているか」と声をかけ、相談しやすい環境づくりを伝え示していくことも重要でしょう。
知識・スキル補完をとおしていくらかの不安を解消させ、小さなことから体験させていくことが一人ひとりの自信につながります。(リーダーに限らず)自社が期待する一人として、その人らしい役割とともに、その役割が発揮しやすい環境・機会をつくることが育成のしかけではないでしょうか。
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コンサルタントプロフィール
経営革新コンサルティング事業本部 チーフ・コンサルタント
皆越 由紀(みなこし ゆき)
営業・販売やコンタクトセンターといった顧客接点機能を中心に「顧客満足」と「従業員の満足度(働き方・働きがい)」の双方を満たすサービス開発・顧客体験づくり、実現のための業務・マネジメント改革を支援しています。