コラムCOLUMN
事業開発実践力養成研修
第6回(最終回):潜在ニーズ発掘と新商品テーマへの落し込み
シニア・コンサルタント 池田 裕一
■はじめに
独自性のある新商品・サービスを生み出すためには、潜在ニーズを発掘し開発に反映していくことが重要です。第6回目の最終回では潜在ニーズの発掘方法及び集めたニーズをどのように開発テーマに結びつけていくかを解説します。
■潜在ニーズ3つの区分
「潜在ニーズを集めよう」というものの、どのように集めてよいか戸惑う読者も多いのではないでしょうか。アンケートや表層的なインタビューでは、顕在ニーズは得られても潜在ニーズは得られにくいものです。
潜在ニーズを発掘するには方法論があり、次の3つに分けて考えてみましょう。
1つ目はあきらめニーズです。
これは顧客にとって問題の認識はあっても、手段が分からないため声になっていないニーズです。困っていても今の技術では無理ととらえ、あきらめているようなケースと言えます。こうしたあきらめニーズは、顧客の心の中は問題が顕在化しているので、インタビューの工夫によって発掘することができます。「何が欲しいですか」ではなく「したくてもあきらめていることありますか」と聞くのです。あきらめていることを聞くと、顧客は知らないが他業界で解決手段がすでに導入されていたり、研究所やグループ会社でそのテーマに取り組んでいたりすることもあり、解決手段が提案できるかもしれません。
2つ目は無意識ニーズです。
昔からその方法で作業している、その機械を使うのは当たり前といった話で、顧客は問題の意識がありません。こうした無意識ニーズはいくら聞いても出てきません。この場合は第3者が顧客の現場を観察し、問題と思われる作業や方法を分析して解決アイデアを考えるとよいでしょう。そのアイデアを顧客に投げかけます。それによって顧客が気づきニーズが顕在化するのです。
3つ目は将来ニーズです。
現在は潜在ニーズであっても時間の経過とともに顕在化するもので、高齢化を例にとると現在はあまり問題になっていませんが2人に1人が高齢者になった未来では問題になるようなニーズのことです。こうした将来ニーズは人に聞くだけでは不十分で、文献や記事を数多く集めて未来洞察を行う必要があります。予測の定石は情報源を数多く集めることです。数多くの情報を集めることで極端な情報は排除されます。くれぐれも1つの情報で判断しないことが大切です。
■潜在ニーズの分析
次に収集した潜在ニーズをある基準に基づいて分類し、ターゲットとすべき潜在ニーズを特定します。
・短中期ニーズ/長期ニーズ
・今の技術やその延長で解決できそうなニーズ/技術革新が必要となるニーズ
などで分類し、自部門の特性に合ったニーズを選定します。
たとえば営業部門であれば短中期で既存の延長上のニーズが取り組みやすく、研究部門では長期かつ技術革新が必要なニーズに取り組むなどです。そのニーズを広さと深さでも評価します。特定顧客固有のニーズで広がりがなければ大きな需要は期待できませんが、世界共通のニーズであれば市場の魅力は大きいと言えます。
ニーズの深さとして、既存の商品・サービスでニーズの多くが満たされていれば市場の魅力は小さいですが、本質的にニーズ解決のめどが立っていなければ魅力は大きいでしょう。市場の成長性や自社の経営資源との関連性なども考慮してニーズを絞り込みましょう。
■商品テーマへの落し込み
ニーズから商品テーマに導く過程で注意すべき点は自社製品や技術の押し付けにならないことです。
たとえば高齢者の安否確認といったニーズに対して、自社がゴムメーカーの場合、すぐに「センサー付きゴムマットを作りましょう」と決めないことです。まず、安否確認にはどのような方法があるかを列挙します。例えば天井や壁にセンサーを付ける、電気製品のオンオフ、人による定期訪問や巡回などです。これらの選択肢の中で、顧客にとって機能的、経済的、心理的に適合する方法は何かを検討し、結果としてセンサー付きゴムマットが最適であれば商品テーマになりますし、そうでなければ自社技術が最適となる別のニーズを探す必要があります。
このように顧客から見た選択肢を検討したうえでニーズに合った商品テーマを決定することが大切です。
以上、第6回にわたって「事業開発実践力養成研修」のコラムをお届けしました。
ご覧いただきありがとうございました。
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コンサルタントプロフィール
R&Dコンサルティング事業本部 技術戦略センター
シニア・コンサルタント
池田 裕一
機械販売会社の財務部門を経て、1990年(株)日本能率協会コンサルティングに入社。
以降、メーカーやサービス業を対象とした新製品・新規事業探索、開発テーマ設定、新製品・新規事業企画、新事業評価などのコンサルティング、研修、講演にあたる。
著書「新規事業・新用途開発技法とテンプレート」日本能率協会総合研究所「開発者のためのマーケティング」同文館出版など