コラムCOLUMN
「次世代経営人材育成研修のかんどころ」
第3回:「なぜ、最初に財務なのか?」
シニア・コンサルタント 横山 隆史
はじめに~
それでは、第3回以降は研修の内容について、具体的に紹介していきます。
次世代経営人材育成研修は、少なくとも3~4か月、平均では半年程度の時間をかけて取り組んでいます。経営人材として求められる知識の習得、さらにはアウトプットに要する時間を考えると、どうしても半年程度の時間は必要となってきます。
全体を通して、座学形式で行うインプット研修と、最終報告に向けたアクションラーニングが組み合わされていることがご理解頂けると思います。まさに、インプットで学んだ内容をそのままアウトプットに活かしていく、というスタイルをとっているのです。そのため、研修と研修の “間” も、最終報告に向けて取り組んで頂くことになります。
インプット研修について、順に項目を見ると
財務
経営戦略
マーケティング
リーダーシップ
となっています。このままでは、MBAで習得するようなカリキュラムをそのまま並べているような印象を受けられるかもしれません。事実、このように項目を並べているだけの次世代経営人材育成研修は数多く見受けられ、研修全体がつながっていない、ストーリーとなっていないことが少なからずあるようです。
私は、これをいつも、目的感をもって読み替えています。
財務 → 経営の成果を、金銭という尺度で捉える
経営戦略 → なぜその成果に至ったのか、内外の環境分析からテーマを見出す
マーケティング → テーマの解決に向けて、事業の方向性を見出す
リーダーシップ → 方向性の実現に向けて、人を動かす要素を考える
このように目的感で記すと、全体がつながっている、ストーリーとなっていることがご理解頂けるでしょうか。
また、このようにストーリーにすると、財務を研修全体の冒頭に位置付ける理由もお分かり頂けるかと思います。経営の成果を捉えるには、つまり経営の実態を把握するためには、財務がベストなのです。
財務諸表は 「お金」 という尺度で表示されますから、定量的にキチッと実態を捉えることが可能です。毎年作成されますから、常に最新の実態を定期的に捉えることができます。さらに、財務諸表の作成ルールは基本的に同じですから、他の企業との比較も容易です。
逆を言えば、研修では、財務に関する細かな知識・ルールに立ち入ることはしていません。研修の受講者は、財務・経理の専門部署への配属を指向しているわけではありません。経営の実態を捉えるために必要となる最低限の知識・ルールは説明しますが、それ以上に財務諸表を読み込み、実態の把握に努めるようにしています。
それでは、研修で特に意識して伝えていることを、ここではご紹介します。
1.道徳と経済の両立
二宮尊徳の言葉として有名ですが、「道徳なき経済は犯罪、経済なき道徳は寝言」 は機会あるごとに伝えるようにしています。次世代経営人材と言えども、この点を勘違いされていることがとても多いのです。
企業は、経済活動を通じて、社会に貢献しています。つまり、売上をあげて利益を獲得することが社会貢献なのです。裏を返せば、売上があがらない商品を世に送り出すことは、社会の資源の無駄遣い、ということが言えます。
この点を誤解されている方がまだまだ多くいます。「講師、なんでもお金に結びつけなければならないのですか?」 という質問も受けますが、安全・安心を除いて多くの場合は 「はい」 と答えています。お金に結び付かない活動ならば、それは税金の役割であり、我々は税金をきちんと納めています。慈善事業なら税金に任せればいいのです。慈善事業は我々の主目的ではありません。もっとやるべきことがあるはずです。
先日も、研修の最終発表で 「食育を通じて社会貢献をしたい」 というものがありました。親子を対象に料理教室を開催し、自社の製品を通じて本来の味覚を普及させたい、という内容なのですが、販売数量アップに向けた “出口” がありません。自社製品に自信があるなら、顧客に購買してもらい、継続的に使ってもらってはじめて、本来の味覚が保たれるはずなのです。さらに、購入してもらうからこそ企業側は利益が得られ、価値ある製品を継続して供給できるのです。
道徳先行で経済が抜け落ちている典型的な事例ですが、近年、SDGsやESGが誤解されているようにも感じています。我々は事業を通じて社会貢献している、つまり売上・利益をあげることが社会貢献、次世代経営人材としての道徳と経済は、今後も繰り返し伝えていこうと考えています。
2.お金に関心をもつ、お金が好きになる
お金への関心は、次世代経営人材として必須の要素と考えています。企業が経済活動を行う主体であり、利益を獲得することが目的である以上、経営人材がお金に関心をもっていない、というのはあり得ないことだと思います。少なくとも、「お金は苦手だが、重要さは分かる」 であって欲しいのです。歴史上の著名な経営者をみても、本人が 「お金は苦手」 だとしたら、信頼できる “金庫番” と一緒に経営にあたっています。
一方で、お金に関心があることと、財務の知識が豊富、は別物だと考えています。単純な話ですが、もし、財務の知識の多い/少ない、で儲かるかどうかが決まるのなら、財務・経理部門の人材はみな大金持ちになっているはずです。
お金に強い人に共通しているのは、想像力だと考えています。常に、お金の “裏” をみています。「なぜ、この金額になっているのだろう」 という具合に、お金の裏側で生じていることを想像しているのです。
研修でも、財務諸表を読み込み、経営指標を分析しながら、「なぜ、そうなっているのか?」を徹底的に深堀しています。
3. 「良い/悪い」 はない、「好き/嫌い」 で考える
これも非常に数多くあることなのですが、経営指標分析で 「何%だと良いのですか?」 「悪いのは、何%を切った場合ですか?」 という質問です。このような質問に対して、おおよその平均値・目安で答えることはありますが、基本的に 「良いか、悪いかはみなさんで考えて下さい」 「それよりも、どうしたいですか?」 と返しています。
お金は基本的に、他人に迷惑をかけなければ、どのように使おうが、文句を言われる筋はありません。基本的に個人の自由、各社の自由です。ですから、「どう持ちたいか」「どう使いたいか」「どう稼ぎたいか」 をご自身で考えて欲しいのです。まさに 「好き/嫌い」 なのです。
例えばですが、売上高営業利益率が10%あったとしましょう。これを講師が 「良い」 と言ってしまうと、受講者は 「これで十分」 と思ってしまいます。ですが、営業利益率10%以上の会社はいくらでもあります。思考停止になって欲しくないのです。
また、正解もありません。自己資本比率を例にすると、一般には 「高い」 方が良いとされます。ですが、これはあくまで安全性の観点であり、成長性の観点から考えると負債を有効活用する財務レバレッジが是とされます。さらに、株主重視が突き進めば、スターバックスやマクドナルドのように、超優良企業であっても債務超過(※執筆時点)とするのです。
次世代経営人材として、お金をどのように持ち、どう使い、どう稼ぐか、「私はこうしたい」 という意思が必要なのです。まさに好き/嫌いで考え、自身で選択しなければならないのです。
次回は、テーマの選定から事業の方向性検討について触れたいと思います。
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from 日本能率協会コンサルティング on Vimeo.
コンサルタントプロフィール
経営戦略事業部 シニア・コンサルタント
横山 隆史(よこやま たかし)
政府系金融機関で、営業・審査業務を経験し、当社入社。
前職での経験を活かしてアカウンティング・ファイナンス等の分野で強みを発揮しながら、経営戦略、マーケティング等へ領域を広げてきた。
新規事業検討、ビジョン・中期経営計画策定、ビジネスモデル構築、企業/事業再生等といった分野で実績がある。
近年においては、新たなビジネスモデルの概念「プロフィット・デザイン」の普及に取り組むと同時に、次世代の経営人材育成支援に取り組んでいる。