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  3. 「実践的人事評価関連研修のポイント」 第1回:人事評価制度運用についての課題認識シニア・コンサルタント 栗山 裕司

「実践的人事評価関連研修のポイント」
第1回:人事評価制度運用についての課題認識

シニア・コンサルタント 栗山 裕司

■はじめに

 本コラム(全6回)では、人事評価制度(目標設定含む)運用のレベルアップに向けた実践的な人事評価関連研修のポイントをご紹介いたします。
 
 JMACの人事評価関連研修は、HRM領域のコンサルタント(主に人事制度構築と導入・定着化および組織開発系)が講師を務めます。業種・規模問わず豊富なコンサルティング経験、および各社の実在者事例に基づき実践的内容の研修を企画〜実施・総括まで行っています。
 
 各回執筆者は、人事担当者や役員層のみならず各部門の評価者・被評価者の方々とのディスカッションを通じて生まれたそれぞれの問題意識に基づき延べさせていただきます。
 第1回は、人事評価制度運用の基本的な課題認識についてご紹介します。

■運用基盤なくして改革なし

 人事評価制度の運用基盤が整っていないのに、人事制度改革が目指している変化を起こすことは可能なのだろうか?制度に関する潮流に乗ることで目指す変化を起こせるのであろうか?
世の中にあふれる情報と、コンサルティングの現場実態とのギャップの間で仕事をするコンサルタントとしての実感である。

 人事制度の基本コンセプトが変われば制度内容も変わる。評価制度で言えば、コンセプトに沿った評価区分・評価項目またウエイトが設定される。しかし、新しい制度運用の考え方にすぐには切り替わらず、改革前の考え方を引きずっている実態がある。また、そのこと以前にどんな制度内容でも共通に求められる評価制度の運用基盤が十分に整っていない場合も多い。ここで言う運用基盤とは次の2つである(下図参照)。

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  ①上司と部下間で、会社の期待、日常での仕事ぶり、評価時点での現状認識と
   今後の課題が共有できていること、
  ②上記①について、評価者間(一次評価者と二次評価者間等)で必要な内容が共有できていること

 このような基盤を整えると、被評価者から見て「自分に対する評価理由が(評価点の高低に関わらず)納得できる」ようになる。
 上司と部下との間で納得感ある対話がなされるかどうか、それは職場づくりの上で重要なポイントである。

 日本の人事管理は長い間「昇」という字に支配されてきた(昇給、昇進、昇格等)。処遇は年々上がっていく、という考え方である(社員の生活基盤の確保という会社使命の1つの現れ)。それに対し、成果主義への転換、職能等級制度の改定、また役割等級制度の導入等により「止まる」「下げる」という考え方を、時間をかけて制度の中に取り込んできた(過渡期には(「降給」ではなく)「マイナス昇給」という言葉もあった。それだけ「昇」の呪縛は強いということである)。

 そのような中で、上下する(可能性のある)処遇について「なぜそうなるのか」という説明が求められるようになった。「フィードバック」「1on1」等の場を作ってもこの運用ができていない限りその場は有効にはならない。

 この点については、社員一人ひとりの考え方・取組み意識に左右される部分が多く、またある程度変化のための時間が必要であることは否めない。だからこそ、この基本的な運用基盤づくりに対して丁寧に、継続的に向き合っていくことが必要となる。

 「基本」を学ぶことは退屈である…という声も聞く。しかし、「基本」ができていない中での上積みは期待できない(たまたま実績が上がることはあっても)。

 人事評価制度を運用する上で、

・(上位方針は受けつつも)目標設定の出発点となる部下自身が前向きであるか
・会社の期待(等級基準、評価項目の着眼点等)を評価者も被評価者も理解しているか
・上司は日頃の部下の仕事ぶりに関心を持ち、具体的な実績・行動に基づく対話により、
 その時々の状況と課題を部下と共有しているか。
・評価項目に沿って、被評価者の実績・行動を「分けて」とらえることができているか
・等級毎の期待水準に基づき評価点を判断しているか
・評価点を通じて現状(できているところ・不足しているところ)を共有できているか
・現状を踏まえ、次に取り組むべきことが共有されているか

 ということは、人事管理のコンセプトがどうなろうとも追求すべきことであり、1つ1つ丁寧に議論していくことが必要な内容である。
 
 人事制度という器を変えても社員の考え方・行動が変化するためには時間を要する。だからといって、変化を待っていることはできない。次回以降、そのような変化を促す実践的研修のポイントをご紹介していきたい。
 

■運用基盤づくりの前提として「運用可能な」制度設計も大事

 なお、本コラムは研修がテーマであるので詳細は省くが、制度設計に携わる立場からすると、以下のような「運用しにくい制度」になっていないかという確認もしたくなる。

・上下の等級の期待水準が不明確
・評価項目が多すぎて各項目の内容が理解できない、日常の部下の行動を
 そこまで分解して把握することが極めて困難
・評価の手続きの煩雑さに比べて、評価結果の違いによる処遇への反映、
 またその運用が上司と部下の関係性の向上に結び付く実感が少ない など

 
 人事制度設計の前段で、あらためて

・ウチの社員には何を期待するのか。今までと何を変えるのか、また何は残すのか
・どんな社員を報いたのか。どのように報いたいのか
・どのような働き方を推奨するのか


 といったことを議論する必要がある(本来の制度設計は、このような議論があって、それを実現するためにはこんな制度が有効というストーリーで検討するものである。一例であるが「ジョブ型にする」ことありきで検討することでは決してない)。

 人事管理の側面での競争的な優位性(報酬、働きやすさ等)を確保することも大事な時代になってきている。そのため世の中の動向に目を配らなければならないが、あらためて内部の状況(実力)にも目を向ける必要があるのではないか。そのような中で「企業と個人の双方が最大限に活きること」を目指していければ、と考えている。

次回以降、以下の内容をご紹介予定
第2回:目標設定
第3回:人事評価(業績・成果評価編)
第4回:人事評価(能力・行動評価編)
第5回:面談・フィードバック
第6回:被評価者のセルフマネジメント

>> 関連する研修:「評価者研修」

コンサルタントプロフィール

HRM革新センター
シニア・コンサルタント 栗山 裕司(くりやま ひろし)

栗山さん

1989年に日本能率協会コンサルティング(JMAC)入社以来、30年以上に渡り人事制度の基本構想立案、人事制度改革(等級、給与・賞与、人事評価等)と新制度の導入・定着化施策の実施、および評価者・被評価者を対象とした各種研修(評価、目標管理、マネジメント等)を、業種・規模問わず支援している。  

また、人事制度を入り口にした人材育成、組織づくり等実践的な職場の問題解決に取り組んでいる。

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