コラムCOLUMN
「自社らしさを活かしてCS・EXをつくる」
第1回:顧客体験(CX)から新規事業を開発する
コンサルタント 小倉 亜耶乃
■技術やリソース起点で新規事業は上手くいったか?
新規事業開発に取り組む際、自社の技術やリソース起点で考えるアプローチが多く見られます。なかでも製造業においては、自社技術と顧客・市場のニーズの両面から考えるアプローチが中心なのではないでしょうか。
しかし本研修では「技術を捨てる」発想を軸としています。技術により生み出された新事業ももちろんありますが、身の回りの多くの「革新」はあくまでも「顧客価値」と「顧客体験(CX)」の追求から実現されていることが多いからです。あくまでも技術は手段であり、新事業開発においては「二の次」で良いはずです。
CX(=Customer Experience)とは、顧客体験、あるいは顧客体験価値のことです。成功確率の高い新規事業開発のためには、2つの視点でCXが重要です。
①良いCXを共創することを事業目的とする
企業は顧客に価値を提供するのではなく、顧客とともに体験価値を共創することを新規事業の目的に据える。
②CXの洞察から新規事業のアイデアを得る
技術やリソースから考えるのではなく、深い顧客洞察から新規事業のアイデアを紡ぎだす。
■良いCXを共創することを事業目的とする
CXとは、顧客体験(価値)のことだとお話ししました。重要なことは、企業と顧客が価値を“共創”することにあります。以前は、「企業が価値をつくり、顧客は対価を払って価値を手に入れ、消費する」という価値交換的な考え方でした。これをロバート・F・ラッシュとステファン・L・バーゴは、グッズ・ドミナント・ロジック※1と呼んでいます。
これに対して、「価値は企業と顧客が共創するものである」という考え方をロバート・F・ラッシュとステファン・L・バーゴはサービス・ドミナント・ロジック※2と呼びました。
もちろん、モノによる差別化で勝負する、勝負できる、ということであれば、それは素晴らしいことです。しかし、「モノからコトへ」、「コト消費」といわれるように、多くのメーカーではモノ=製品による差別化が難しくなってきました。そうであれば、「価値共創業」にシフトせざるを得ないのではないでしょうか。価値共創業は、顧客の体験に焦点をあてます。例えば、ディスカバリー社が生み出し、日本では住友生命が展開する“Vitality”という保険は価値共創型の新規事業といえます。
Vitalityは、人が健康増進に取り組むことを支援するプログラムです。健康診断の結果が良好であれば割引をするという“結果型”ではなく、最初に保険料を値引きしておき、健康増進の取組みに応じてその後の保険料が変わるという“プロセス支援型”なのです。そして、楽しく健康増進に取り組むための様々な工夫や仕掛けがあります。契約者が楽しく健康増進に取り組むことを保険会社が支援する、まさに価値共創型といえます。
「CXから新規事業を開発する」一つ目の意味合いは、良いCXを共創することを事業目的にするということです。体験を顧客まかせにせず、共創していくことが重要です。CXとは、「その企業とその顧客でなければできない体験」です。顧客は体験を通じて、「その企業らしさ」を実感します。この自社らしい体験価値共創が他社との差別化となり、顧客のロイヤルティを高めるのです。
■CXの洞察から新規事業のアイデアを得る
「CXから新規事業を開発する」というもう一つの視点は、文字通りCXの深い洞察から新規事業開発を進めるということです。冒頭で述べたように、新規事業開発の考え方として、技術・リソース発想があります。しかし、繰り返しになりますが多くの新規事業は深い顧客洞察から生まれていると考えます。
例えば、ネスレ日本が手掛けるネスカフェアンバサダーは顧客洞察の結果から生まれたものではないかと推察します。職場でのコミュニケーション機会が減っている、コンビニでコーヒーを買う人が増えている、かといって従来型の給茶機はあまり利用されていない…。こういった洞察結果にビジネスのヒントがあったのではないでしょうか。
私たちは、「徹底した顧客共感による新規事業開発」を支援しています。そこには、従来型開発からのパラダイムシフトが求められます。
これまでも、もちろん「顧客視点を重視してきた」と多くの企業の方がおっしゃいます。しかし、その実態は、「顧客視点“でも”検証した」というような“後付け”的な顧客視点での検証が多いのではないでしょうか。新規事業開発は、技術やリソース、市場分析の深さや幅ではなく、顧客洞察、その結果としての顧客への共感の深さや幅で差が出るのです。
■自社らしさを際立たせる
深い顧客洞察とのその共感から開発し、顧客との体験価値共創を目指すことが新規事業開発の重要なポイントだとお話してきました。その体験価値は、「自社らしさ」が感じられるものでなくてはなりません。CXは、「自社とその顧客でなければ体験できないこと」だからです。
CXデザインで重要なことは、自社がこだわる体験に絞り込む、言い方を変えれば、磨く価値と捨てる価値を明確にするということです。CXをデザインする場合、ともすると顧客から求められるすべての要件に応えようとして総花的になり、なにもかも"そこそこ"な可もなく不可もない、没個性な企業・事業になりかねません。それでは、どの企業でも体験できる価値しか提供できません。経営資源の選択と集中という視点からも、自社らしい体験価値を明確にすることが不可欠なのです。
■徹底した顧客共感を起点とする
そもそも、新規事業は上手くいく保証はありません。トップの決断が求められるところです。SWOT的なアプローチのよいところは、論理的で説得力があるところです。しかし、ともすると"どこかで見たようなアイデア"になりかねません。徹底した顧客洞察・共感からのデザインアプローチをいかに取り入れていくかが新規事業開発成功のカギを握っています。
JMACでは、「徹底した顧客起点からの新規事業開発」をコンサルティングはもちろん、ワークショップ形式でもご支援しています。
※1、※2:サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用、Robert F. Lusch ・ Stephen L. Vargo (著)、井上崇通 (訳)、2016/6/24
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コンサルタントプロフィール
経営コンサルティング事業本部 CX・EXデザインセンター
コンサルタント
小倉 亜耶乃(おぐら あやの)
顧客接点・顧客満足度向上を起点としたテーマを中心にご支援した経験を有する。
主な支援テーマは、CXデザイン、サービス競争力強化、顧客接点の品質向上、コールセンター改革、営業力強化/業務プロセス最適化支援、など。