コラムCOLUMN
「製造現場における人材育成」
第5回 :現場における人材育成
チーフ・コンサルティングプランナー
山元 康信
1.「安全」における人材育成
今回は「安全」における人材育成について述べてみたい。なぜ唐突に「安全」なのか?と思われる方もいるかと思うが、私が今年度クライアントの皆様からご要望いただいた社内教育のテーマで一番多いのが安全に関するテーマだからである。
様々な教育テーマがある中で「安全」に関する教育が毎年コンスタントにご要望をいただくのは、教育テーマの対象が一部の従業員だけではなく、新入社員を含めた全従業員であることや、安全は各企業にとって永遠の課題であるからではないかと思う。
ここで現在の労働災害発生状況を見てみたい。休業4日以上の死傷者数は毎年10万人を超えており、令和2年度も13万人を超えているのが現状である。その原因を見てみると1位:転倒 2位:墜落・転落 3位:動作の反動、無理な動作 4位:挟まれ巻き込まれである。
皆さんの職場でも安全に関してはかなり力を入れて教育をされていると思うが、それでもなお毎年全国で10万人以上の死傷者が出るのはどうしてであろうか。
私はその要因を安全の人材育成自体が一般論の話しでとどまり、実際の製造現場の不安全状態と乖離した教育内容となってしまっているためではないかと考えるのである。
この「一般論にとどまった教育内容」というのはなにも安全の人材育成だけではなく、多くの教育に共通してみられる問題である。教育をしたからあとは大丈夫という考えでは人材育成の本来の目的を達成していないことが多々見られる。
では実際の現場の不安全状態と乖離した一般論の教育内容として最近私が経験した内容をお話しする。
あるクライアントの方から「挟まれ巻き込まれ体感」の教育を毎年実施しているが、いまだ現場の回転機に対する不安全行動が減らない」という困りごとを相談いただいたのである。
「挟まれ巻き込まれ体感」とはモータで回転する駆動ローラに木片や軍手などを実際に回転機に巻き込ませるのである。その木片や軍手にかかる力を体感することで、自分が巻き込まれればどうなるか想像させることで回転機に対する危機意識を持たせるものである。
なぜ不安全行動が減らないのか、私たちが事前調査として現場に入り調べた結果、理由はいくつか挙げられるが、教育内容に関わる問題点として、一般的に販売されている「挟まれ巻き込まれ」を体感する装置をそのまま使って教育を行っているため、実際の製造現場の「挟まれ巻き込まれ」の危険から乖離していたのである。つまり教育は現場現物で実際の現場に沿った設備と内容で実施する必要があると感じている。
一般的な巻き込まれ体感を教育したあとに、体感してどのように感じたのか、自分たちの職場のどこに同じような危険個所が潜んでいるのか、そして過去にその職場の危険個所でどのような災害が発生したのか、現場現物現実に即して具体的に現場に落とし込んだ教育を行ってはじめて危機感を自覚し、現場の実際の不安全状態から乖離しない教育内容にすることができるのである。
また座学だけでなく、安全教育の中で職場のグループで自分たちの作業手順を振り返りながら危険作業がないかディスカッションしたり、各設備のリスクアセスメントを行った結果を振り返ることも効果的である。
2.安全の基本は5S
クライアントの皆様から安全教育のご相談をいただくと、私たちは事前調査として現場を見せてもらうことが多い。すると安全の基本である5S(特に整理・整頓が重要)ができていない現場が多いことに気づく。
現場の整理・整頓の指摘をすると、自覚はされているようであるが、「今回は5Sの話しではなく、安全の教育をお願いします」と言われることも多いのである。
またあるクライアントからヒューマンエラーについて講演のご要望をいただいた時である。
この時も整理・整頓の話しが出たが、「整理・整頓の話しは必要ない」との返答であった。整理・整頓はヒューマンエラー対策の重要なキーワードであるが、「整理・整頓では安全に対する速攻性にかける」と考える方も多いようである。
現場の実際の不安全状態から乖離しない教育内容にするには、安全と5S(整理・整頓)は切っても切れない関係であることを認識いただければと感じるのである。
3.人材育成の心構え
「安全」という言葉は今までは安全だったという過去形の言葉でしかない。
平穏、順調は危険に対する「危険予知力」を鈍らせる要因となるのである。
また過去に発生した災害は、その会社、その現場で発生した「特有の災害」であることを再認識させるため、新入社員を含めて社員全員に繰り返し教育しなくてはならないのである。
このように何度も繰り返し教えることが「危険予知力」を高めることにつながるのである。
そのためには上司の「自職場では絶対災害を起こさない」という強い意志と、部下を災害から守るという強い覚悟が必要である。
他の人材育成もそうであるが、安全の人材育成はやはりトップや上司のやる気で決まるものである。
JMACでは安全に関する人材育成の体系づくりやカリキュラム、テキストなど、各クライアントの皆様の人材育成をサポートする体制が整っており、特にテキストに挿入する事例はクライアントの方の製造現場を撮影させていただき、その写真を使用するなど、現場の実態に沿った教育内容にするためのテキスト作りを行っている。ご興味のある方はお問合せください。
コンサルタントプロフィール
TPM事業本部 インテリジェントメンテナンスセンター
チーフ・コンサルティングプランナー
山元 康信(やまもと やすのぶ)
1992年日本プラントメンテナンス協会入職。2013年日本能率協会コンサルティングと合併後現在に至る。
コンサルティングプランナーとして数多くの食品工場を担当し、TPM活動を通じて、 生産性向上、労働安全を含めた改善活動の推進を経験してきたとともに、TPM優秀賞の審査などで診断も経験。