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「ラインに貢献!スタッフ人材として「共通の心得」を学ぼう」
第3回:スタッフ概論③
シニア・コンサルタント 塚松 一也
■はじめに
それぞれのスタッフの業務内容・職務分掌は社内規定や一般書籍等で詳しく語られていますが、スタッフ職に共通に言える基本姿勢や仕事の考え方について書かれたものは、これまであまり見かけたことがありません。
本コラムでは、職務内容に係わらず、誰かを支援することが貢献になるという意味で、スタッフたる人が共通して心得ておくべきことについて、8回に分けてお届けします。
今回は、第3回「スタッフ概論③」をお届けします。
1-8.トップとラインとスタッフの理想的な関係とは
組織の改善や変革がうまくいかない原因はいろいろありますが、そのひとつに、トップとラインとスタッフの3者の構図が悪い関係になっているということがあります。
悪い関係というのは、トップが改善の推進を直接ラインに指示せずに、スタッフに指示するという構図です。改善はラインの現場で実施してはじめて効果があるものですので、本来「もっと改善しろ」という要求は直接トップからラインに命じるべきものです。ところが、本来ラインに言うべきことを、「あいつら忙しそうだから、ちょっと言いにくいな。目の前にいるスタッフのほうが言いやすいから、スタッフに指示するか。」ということで、トップが変な遠慮をラインにして、スタッフに改善指示という変な始まり方をするのが、悪夢の始まりです。改善の指示をうけたスタッフは、「トップからの指示なので、改善をしてください。手法はこれです。ツールはこれを使ってください。」とラインに改善を迫ります。トップからそう命じられてしまったので、ラインに対してその命令の伝達、手法の押し売りをする嫌な役回りにはまるわけです。この改善内容が、まさにラインが求めていたものであれば問題がないのですが、そうでない場合、ラインはこの改善の押し売りに対して、抵抗します。「この忙しい時に、何を押し付けてくるんだ。現場はそんなことは望んでいない。やりたくない。どうせ余計な仕事が増えるだけでしょ。」などと、時に感情的なラインの抵抗にスタッフは遭うことになります。ラインから抵抗されたところで、すごすごと諦めるわけにもいかないので、ラインとスタッフの間で「やれ」「やらない」の押し問答になりがちです。それが、悪い構図で、図8の左の状態です。
一方、図8の右が良い関係になります。良い関係では、ラインがさらなる改善をするために、ラインに援助を求めるというのがスタートです。スタッフは、その相談にのって適切な援助・支援をします。もちろん、相談された時に適切なアドバイスができるということは、あらかじめ勉強しているということです。相談をうけたときに、「あいよ!こういう日がくると思って、以前から準備してあるよ。」とスタッフから言ってもらえたら、相談したラインの目には、非常に頼りになるスタッフとして映るはずです。
ラインとスタッフの良い関係では、ラインが実際に困っていることをスタッフが支援しますので、そこでなされることは現場に受け入れてもらえます。つまり、スタッフはラインからうとまれずに感謝される存在になれるというわけです。
次に、トップとスタッフの関係をみてみましょう。悪い関係ではトップがスタッフに指示をする構図でしたが、良い関係ではスタッフがトップに改善を提案する構図です。改善の多くはラインでなされるものですが、トップがなすべき改善もあります。トップは、ラインやスタッフにない権限を有しています。権限がないとできない改善は、トップがやらなければいけないものです。たとえば、ルールを変えたり、投資が必要なシステムを導入したりするなどです。これらの意思決定は最終的にトップが総合的に判断して決めるものですが、それを促す提案・助言を行うのがスタッフの役割になります。また、ラインとスタッフで一部の現場で推進している改善施策が有効であれば、それを組織に広く広げるようにトップに進言をするのも同様にスタッフのミッションだと言えます。
準備不足で不完全な勉強で何かを押し付けにいくのではなく、前もって完璧に近く勉強しておき、いよいよ機が熟しラインから相談をうけたタイミングですかさずそのまま使える何かを提供できるように準備しておくことがスタッフとして極めて重要な日常の仕事のひとつなのです。
さらにいえば、スタッフは、ラインから相談をうけて対応するという受動的な動きだけでなく、ラインに対して情報提供や啓発をする能動的な動きをすると、その存在価値が高まります。図9は、トップとラインとスタッフの良き役割分担とその関係の一例ですが、スタッフたるもの長期的で広角的な視野で大事なことを準備している存在であるべきです。
一方、トップとラインとスタッフの関係が悪くなると、改善・改革が進まないどころか、本来権限がないはずのスタッフがトップの権威をかりて自らを勘違いし、警察国家的になってしまうおそれも生まれます。
1-9.スタッフが権限を持つようになると危険
ピーター・F・ドラッカーは、「スタッフの仕事にはなんらの責任もない。スタッフの仕事の成果とは、現業の人間の効率をあげ、生産性をあげることである。スタッフは、現業の人間に対する支援部隊であって、現業の人間に代わるものではない。責任を伴わない権限が長期にわたると腐敗を生む。」と、スタッフが権限をもつことを強く戒めています。
『V字回復の経営』で三枝匡さんは、「ダメな組織では、スタッフがラインの手伝いをしているのではなく、まるでラインがスタッフの下請け仕事をしているのではないかという、本末転倒の様相がでてくる。」と警鐘をならされています。スタッフたるもの、そのような本末転倒状態に陥ることに加担してはなりません。権限を求めるのではなく、ラインから相談相手として認めてもらえるスタッフを目指すべきです。
権限に頼ったスタッフが組織にはびこることを防止するためには、権限・権力志向のスタッフなのか、貢献・支援志向のスタッフなのかを見極めることが重要になります。その見極めの一助として参考になる方法を、一橋大学の沼上幹さんが「組織戦略の考え方」(ちくま書房)の中で述べられています。トップや顧客の威厳を大げさにかざして、社内で権力を得ている人を『キツネ型権力者』と、沼上さんは称されています。このキツネ型権力者なのか否かは、「トップや顧客に直接会って真意を確かめたい」と申し入れた時の反応で簡単に見分けられるそうです。その時に、自分の存在をアピールしてなるべく権力者と相手の間に自分が居続けようとする人がキツネ型権力者で、相談してきた相手にとってよりよくなるようにフットワークよく各所に働きかけるのが調整リーダーだということです。大変参考になる方法です。
コンサルタントプロフィール
R&D組織革新センター シニア・コンサルタント
塚松 一也
R&Dの現場で研究者・技術者集団を対象に、ナレッジマネジメントやプロジェクトマネジメントなどの改善を支援。変えることに本気なクライアントのセコンドとして、魅力的なありたい姿を真摯に構想し、現場の組織能力を信じて働きかけ、じっくりと変革を促すコンサルティングスタイルがモットー。
ていねいな説明、わかりやすい資料づくりをこころがけている。