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「品質保証を支える品質教育体系とカリキュラム」
第3回:企業内教育の重要性

プリンシパル・コンサルタント 宗 裕二

■企業内教育は何のためにあるか

 企業活動の一環として行われているいくつかの施策の内、重要な施策の一つとして企業内教育を行っている企業は多くあると思われる。とは言え、経営状況が悪化し、企業の利益が圧縮されてくると、早い時期に見直されて中断されるのも企業内教育なのではないだろうか。業績が芳しくない企業にとって、支出される費用が直接無くなるので、業績回復のための施策の一つとして、そのような対策が取られるのであろう。しかし、企業内教育は、自社の社員に対する投資であって、単なる費用ではないことは何方も承知されていることと思う。

 企業内の教育は、企業そのものを支えている人材を育成することであるのだから、企業そのものを育成・発展させるために行うものであることは周知のことであろう。従って、企業内教育は、企業に必要な基礎的な知識を補うことにより企業活動がより高いレベルに押し上げるために行うべきものである。また、企業が今後も発展、持続していくための企業人としての考え方や挑み方と言った企業の色(DNA)を熟成させるためのものでなければならないはずである。

 また、必要な教育内容は、個々の企業で異なるはずであり、既成の教育コンテンツで補えない内容が多くあるのだ。しかし、重要な戦略的位置づけの課題や問題として、行うべき教育内容を議論することは少なく、希望に応じて予算枠を確保することがせいぜいだったりすることもあるのではないだろうか。

 サステナブルに発展し続け、社会に貢献し続けるためには、個々の企業が、本来必要な人材をどのように育成していくべきか、その為に必要な企業内教育はどのような内容なのかを、経営課題として真剣に検討しなければならないわけである。

■ハウツー教育は必要か?

 幸いに、私が存じ上げている企業では、教育の予算構築も真剣に悩まれながら行っており、今の自社にかけている能力を補うべき育成計画を練っておられるところがほとんどである。年末から年始にかけて、来年度の予算を確保すべく、忙しくされていることであろう。

 教育を提供する企業も、既存のコンテンツを充実させ、Webなどで簡易に提供するサービスは多くあるし、豊富な選択肢を持つことを売りにしている教育会社も多くある。自己啓発用の教育コンテンツとして実際に導入しておられる企業も多くあるだろう。教育の効率化の観点からは既存のコンテンツを使うことは有効な方法であると思われるが、しかし、どのような教育内容を学習すべきなのか、自身で選択できる人は少ないかも知れない。

 社会人としての基礎的マナーや会計知識など企業活動に関わる基礎知識は、既存の教育コンテンツから提供を受けるには最適な分野と言えるかもしれない。専門の先生が、分かり易く社会人向けにまとめてくれている質の高いセミナーも多くある。私も自分の専門分野である品質保証の分野で依頼を受け実施することがある。それに対し、自社の歴史や、組織内申請手続きなど、その企業独特なルールを学ぶ必要もあり、こうした教育は大抵の場合、社内の先輩社員が先生になって教育されることとなる。

■企業人としてのリテラシー

 社会人としての基礎技術、あるいは基礎知識として、「パーソナルコンピューターの取り扱い方」や、「表計算の方法」など、一般的に「ハウツーもの」と言われる分野は、日本の教育産業も提供してくれており、公開されている「講座」としてサービスの提供を受けることができる。「改善の進め方」なども、こうした「ハウツーもの」の一つなのかも知れない。

 ところが、「論理的な思考」「論文の書き方」「技術者の倫理」「生データの取り扱い」「技術者の心得」「研究開発の基本的進め方」など、本来、企業人のリテラシーとして必要な分野は、一般に提供されている教育コンテンツが少ないように思う。ハウツー化した方法論はあるが、思想的な、あるいは哲学的な深さまで議論してくれる内容は少ない。企業としても、即実践的に生かせる分野を望んでおり、深い分野はニーズとして無かったのであろう。ところが、ここ10年くらい前から、こうした少々深い基礎分野を希望される企業が多くなってきたように思われる。

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 私共はコンサルティング会社であるので、コンサルティング活動に必要な教育を行うことはあるが、積極的に教育コンテンツの開発をすることはなかった。しかし、コンサルテーションを行うにあたり、支援させていただいている企業側のメンバーの力に疑問を感じる場面に出会うことが多くなってきたように思う。そうした「疑問を感じる場面」も、私がかつて若かった頃と比較すると、より基礎的な部分(例えば論理的な思考など)に疑問を感じることが多いようだ。最初は、自分自身が「理屈っぽくなったのだろうか」と考えていたが、顧客企業側から、「論理的な思考ができていないようだ」「論理的な報告ができない」「なぜなぜ分析を深く思考できない」など、問題意識をいただき、補う教育を希望されることが実際に起こるに至り、企業人としてのリテラシー教育が必要になってきたと考えるようになった。

 「論理的な思考」「論文が書けない」といった問題は、大学にもフィードバックされているようで、7~8年前あたりから、「論理的な論文」に関する講座が実際に設けられ、教育が始まっているようだ。しかし、全ての大学、全ての各部で行われているかどうかまでは確認できていないので、まだまだ、大学教育としても不十分なのかも知れない。

■応用力の醸成

 さらに、ご支援させていただいている企業の声として、よく聞こえてくるのが、「知識としては知っていても応用ができず、実務に生かせない」という声である。私の場合、技術者の方たちと議論をさせていただくことが多く、品質保証の分野が専門であるため、基礎技術である数理統計学の分野の議論が多いのだが、企業内教育全般としても同様に、「応用する力」が必要であるとの問題意識はあるようだ。企業の技術者に、「工夫する時間と機会」が少ないのではないかと思われる。仕事の標準化が進み、一定のルールから逸脱して仕事を進めることは許されていないし、冒険をしてまで改善をすることも求められていないのだろうか。私事で恐縮だが、私が行う研修会では「実務への応用を考える時間」を必ず設けるようにしているし、その為の工夫もするようになった。

 企業内教育を企画する際、今一つ深くお考えいただき、①企業として必要なリテラシーを補い、②応用するための教育企画をお願いしたい。日本の産業界の発展のためにも、特に製造業の製造技術の醸成のためにも、企業内教育の充実をより深く考えていただければ幸いである。

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コンサルタントプロフィール

プリンシパル・コンサルタント /品質経営研究所 所長
/国際経営コンサルティング協会評議会認定CMC
/技術士(登録番号第25742番;経営工学部門品質管理)
/(公社)全日本能率連盟 専務理事(兼業)
宗 裕二(そう ゆうじ)

宗さん

現場力の重要性を強く意識し、専門領域である「品質」を中心視座として、日々活動している。

モノづくり企業に求められる品質構築機能は、「最大の価値と、最小のリスクを、最短の時間で創出できる変換機能を構築する」ことであり、「結果としてミニマムコストのモノづくりが可能となり、最高の利益を獲得出来る」ことになると考え、「品質経営」として提唱している。その為に、「従業員の一人一人が、無意識のうちに、顧客価値を予見した行動を取れる文化を築く」ことが重要課題と位置づけ、その推進に力を入れている。

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