コラムCOLUMN
「実践的人事評価関連研修のポイント」
第3回:人事評価(業績・成果評価編)
チーフ・コンサルタント 大久保 秀明
■はじめに
「実践的人事評価関連研修」第3回のテーマは「人事評価(業績・成果評価編)」です。
おそらく人事評価に関して「問題意識はまったくない。我が社は適切な運用がなされている」と自信を持って言える会社は極めて少ないのではないでしょうか。実際、我々コンサルタントが人事部の方とお話をすると、人事評価に関する問題意識をしばしば耳にします。
そうした問題意識を背景に評価者研修を実施している会社は多くあるかと思います。JMACも毎年相当数の評価者研修の講師を務めており、各社の課題にあわせて様々に工夫を採り入れたプログラムを企画・実施してきました。そこで今回のコラムでは、これまでご支援してきた経験をもとに評価者研修の効果を高めるためのポイントをご紹介いたします。なお、今回は人事評価のうち業績・成果評価(※)を主な対象として論じたいと思います(次回コラムでは能力・行動評価を取り上げます)。
※本コラムでは「仕事の実績に関する評価」を指します。
1.人事評価の目的と評価者に求められる姿勢
まず初めに、そもそも人事評価とは何のために行うのか、つまり人事評価の目的をはっきりさせておきましょう。
人事評価の目的は、「公正な処遇決定」と「人材育成」の2つです。
人事評価の結果を昇給や賞与、昇格等に反映し、成果を出した人や能力が高い人には厚く報いる(逆に成果や能力が低い人には“それなりに”報いる)ことで公正な処遇を実現するのが1つ目の目的です。
また、人事評価を通じて被評価者のできること・できないこと、強み・弱みが明らかになるので、それを踏まえて成長課題を設定し、的確な指導・育成につなげるのが目的の2つ目になります。
これら2つの目的を評価者にしっかりと理解してもらうことが大切ですが、意識啓発の観点では特に後者(人材育成)を強調したいところです。なぜなら後者の目的が実現できるかどうかは、まさに評価者の取り組み方次第だからです。
前者(公正な処遇)については、昇給や賞与のテーブル自体が評価でメリハリがつくかたちになっていれば自ずと目的は実現します。つまりは制度で担保されているということです(もちろん評価者が適切な評価をしていることが大前提ですが)。
一方で後者の目的の実現は、制度では担保されていません。評価者の取り組み次第です。具体的には「評価結果から被評価者の成長課題を抽出する」「成長課題を被評価者に伝えて理解させる」「課題解決のために何に取り組むかをしっかり話し合う」などの取組みがなされているかどうかにかかっているのです。
また上記に加えてもう一点、意識啓発を図りたいのが「部下を評価する権限を有している自分は、組織の健全性や部下の人生に大きな影響を与えうる、責任ある立場にあるのだ」という自覚です。目的に沿った評価がなされなかった場合に生じる、部下の不満感やモチベーションの低下、成長スピードの減退、組織全体のモラールの低下などの様々な負の現象を想像すれば、評価者は自らの責任の大きさに気づくことでしょう。
研修においても上記の自覚を促すための演習を組み込むとよいでしょう。以下に演習内容の一例をご紹介します。
① 自分を評価する上司(自分にとっての評価者)の中で
「人事評価を適切に行っていると感じた実在の評価者」を思い浮かべる。
② 評価者のどのような行為が“適切”であったかを列挙する。
③ それら適切な行為に対して自分はどう感じ、
自分にどのようなプラスの影響があったかを整理する。
④ グループで共有し、「評価者の適切な行為(不適切な行為)」と
「それによる被評価者および組織への(プラス/マイナスの)影響」を話し合う。
⑤ グループワークの結果をクラス全体で共有する。
“実在の評価者”は複数人でもよく、また現在だけでなく過去の上司でも構いません。“適切さ”はもちろん人事評価の目的に照らして判断してもらいます。なお、該当する人が思い浮かばない場合は、反面教師として「適切に行っていないと感じた評価者と、適切でない点」を整理するのでもよいでしょう。
繰り返しになりますが、この演習の主眼は、評価者が人事評価を通じて被評価者に与える影響力を実感として捉え、人事評価に対する向き合い方を変えることです。人事評価というととかく方法に焦点があたりがちですが、むしろ大事なのは評価者の意識や取組姿勢です。この点を蔑ろにして人事評価制度の適切な運用が実現することはないというのが、コンサルタントとしての偽らざる実感です。
2.業績・成果評価のポイントと研修での重点学習テーマ
それではここからは業績・成果評価のポイントをご紹介します。
評価とは「期待に照らして実績がどうであったのか」を判定する行為です。そこでまず評価者が評価を行うにあたっては、被評価者に対する“期待”が明確である必要があります。業績・成果評価における“期待”とは、目標管理を評価に活用している場合は「目標」ですし、そうでない場合は被評価者の等級と職務に基づき設定することになります。
ここでいきなり評価者がつまずくことがあります。「被評価者に対する期待は何か?」と訊かれて返答に窮するケースが案外多いのです。本来評価者は期初に組織の方針・目標に沿って、被評価者一人ひとりに「どのような成果を挙げてほしいか」を明示するべきです。ですがそのステップをしっかり行っていないためか、期待が曖昧なことがしばしば見られるのです。
この点は第2回コラム「目標設定」の範疇ですが、対策として研修で「部下の期待成果」を検討する演習を行うことがあります。組織の方針・目標と部下の職務に基づき上司として今期部下に期待する成果を書き出すものです。このようなトレーニングを必要に応じて実施するのもよいでしょう(※実施する場合は、期初に実施するのがベターです)。
評価のもう一つの判断要素が“実績”です。実績とは、目標管理を評価に反映している場合は「目標の達成度」、そうでない場合は担当業務において挙げた成果であり、定義は明確です。ですが実際には、被評価者の職務成果が何かを評価者が理解できていないケースが見られます。そうした課題認識がある場合には、研修においてワークショップ形式で職務成果例を作成するのも一つの方策です。以下は進め方の一例です。
①はじめに職種別などの大きな括りで成果例を検討する。個人ワークで思いつくものを列挙する。
② 職種別にグループになり成果例を共有し、例が適切か(成果でなくプロセスが挙がっていないか、
行動や能力ではないか、など)を議論しながらまとめる。
③ 職種を細分化し(例えば営業職を「代理店営業」と「個人営業」に分けるなど)、②の成果例
一つひとつが細分化した職種のどれに該当するかをグループで検討し仕分けをする。
④ 細分化した職種の成果例を個人ワークでさらに検討し完成させる。
上記の流れで検討すること自体に、成果に関する理解を深める効果があります。また受講者が作成した職務成果例を人事部でとりまとめ、各部門にも確認してもらいながら「職種別職務成果例」として仕上げれば、評価実務に役立つ参考資料にもなるでしょう(JMACが職務成果例のとりまとめと資料化をご支援することも可能です)。
なお、実績については当然のことですが、評価者が被評価者の仕事ぶりを把握し、どのような成果を挙げたか(=評価事実)を理解しておく必要があります。つまり期中の業務管理が必要不可欠です。この点は次回コラム「能力・行動評価」とも共通する人事評価の原則であり、今回は説明を割愛します。ただ、「期中の評価事実収集」の質をいかに高めるかは永遠の課題であり、評価者・被評価者・人事部の三者で継続的に改善を図っていく必要があることは間違いありません。
3.最後に
以上、業績・成果評価のポイントに沿って、運用レベルを高めるためのトレーニングの例をご紹介しました。
最後に一点だけ申し上げたいのは、人事評価においては「正しい」評価というのはない、ということです。「正しい/正しくない」という概念は正解があって初めて成り立つものですが、人事評価には正解などありません。あくまでも評価者の主観による判断です(「評価」という言葉自体、“誰が”評価するかという行為主体を外して考えることはできません)。
つまり強調したいのは、評価者は被評価者の上司として、自らの判断で自身を持って評価をすればよい、ということです。そして追求すべきは「正しい評価」ではありません。「被評価者にとって納得感のある評価」です。この点をしっかり押さえて運用レベルの改善方向を設定し注力いただければと思いますし、その際にJMACの研修プログラムがお役に立てれば幸いです。
>> コラム次号 「第4回:人事評価(能力・行動評価編)」はこちらから
コンサルタントプロフィール
HRM革新センター
チーフ・コンサルタント 大久保 秀明(おおくぼ ひであき)
ビジネスモデル変革や事業戦略実行、働き方改革、ダイバーシティ推進等を背景とした組織・人材マネジメント改革を支援。
「社員一人ひとりの意識・行動変革を通じて、組織を進化させる」という考えのもと、人事制度改革や運用定着化、管理職マネジメント強化施策、セルフマネジメント浸透施策などのコンサルティングを展開している。
加えてコンサルティングの他にも、階層別教育や各種ビジネススキルなど様々なテーマの研修講師を担当。社員の能力開発を支援している。