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女性コンサルタントが語る「一人ひとりが輝く組織とは」シリーズ
第5回:個を生かす、巻き込み型マネジャーとは ~現場改善の活動事例をもとに~
チーフ・コンサルタント 沼田 千佳子
◆小さな組織での気づき
私はJMACへ入社してから10年近く、様々な上司とチームを組んで、お客様の課題解決を支援してきました。どのプロジェクトも全力で取り組んできましたが、チームとして常に最大限のパフォーマンスを発揮できていたか、と問われると少し心残りな面もあります。
上司は大きく3タイプに分けられます。①権限移譲型上司(プロジェクト推進は部下が中心、上司は顧客上層部との間を仕切る)、②密着指導型上司(部下に逐一報告を求め必要な方向修正)③適度な距離感上司(基本的な指針を示し、困ったときに打合せ)です。プロジェクトの結果としては①は部下中心の思考、②は上司の力グイグイ、③は相互作用を生んで最も良い結果を生んだように思います。
どのような組織も人間同士のやることなので一には相性が影響します。コミュケーションの取りやすさや、好き嫌いが結果にもたらす影響も大きいでしょう。とはいえ、本日ここでは相性は置いておいて、形式的な部分で相互作用を生む組織とするための、マネジャーの役割を考えたいと思います。
◆人を巻き込むためのアイディア
誰しも会社や家庭、大小の組織の中での活動にあたり、目的達成のために共同で活動する場面があります。どうすれば人を巻き込んで、巻き込まれた側も気持ちよく、成果を上げることができるのか。私が気を付けている点からお話します。
①TODOの見える化
近年はイクメンと呼ばれる家事や育児積極的に行う男性が増加しているそうです。女性側としては家事育児をかじったくらいでどうしたのよ、と言いたくなりますが、そういう時に頭の中のTODOリストを書き出して開示することで、パートナーに共通認識してもらい分担ができます。
②相手に期待をすること
真面目な人ほど、人に頼むことは自分が楽になることで申し訳ない、また頼んでも期限までにできないと裏切られたようで怖い、上の期待に応えるには自分がやる、となかなか仕事を渡せない人がいます。皆に好かれようとせず、結果的には相手の成長や組織全体の生産性向上に繋がると考えて、相手にお願いをすべきではないでしょうか。
③定期的な打合せ
顔を合わせること、思いを伝える場を作るのは必要ですが、定期なものとするのが良いです。チームでの分担事項を打合せまでの期間で各自のスケジュールに落として進められます。またチームの中には遠慮して気軽に上司に聞けない方もいますので、発信できる場を作って方向修正を行うことは、推進のカギになると思います。
◆現場改善での巻き込み実践
私は生産・物流の収益改善、サプライチェーン改革・在庫削減のための組織横断的な改革に携わっています。ある物流現場での巻き込み実践とその結果をお伝えします。
輸入食品の流通加工を行う物流センターで、利益率向上を目的に1年間活動を行いました。センター長は男性、他は全て女性で検品・加工作業・ピッキング他それぞれに女性リーダーが配置されていました。リーダーは改善活動の経験は無く、現場がスムーズに動くように他のメンバーのヘルプをすることが仕事と認識していました。私はこのリーダーを改善へ巻き込むことが重要だと認識し活動を始めました。
①TODOの見える化と優先順位付け
最初に、女性リーダーにヒアリングをして、思いのたけを吐き出して頂き、問題関連構造図と課題一覧を作り、改善までのTODOを整理しました。通常、改善の効果見積をして効果の大きなものを優先しますが、今回は組織内の複数の人が関わります。そのため、関わるメンバーからみて成果が早期に表れる作業改善を先に実施しました。ベーシックに、現場担当者のビデオを撮り作業と時間を計測・分析、作業順序・作業場の設計・同時作業化、カンコツ伝授等踏まえた作業標準書作成と教育でメイン工程の生産性30%向上を目指しました。ビデオ撮りなど現場では経験がないので疑心を抱かれながら始まるのですが、ベーシックな改善手法を学んで実際の作業へ当てはめるところまで来ると、楽しい時間に変わります。こちらの設定したTODO通りに進めていくことで結果は得られると認識していただき、他の各工程に横展開するきっかけとしました。
②作業に関わる全員に期待する
私はリーダーへ毎週宿題を置いていきますが、リーダー以外のメンバーへも活動へ参画してもらうようにしました。先ほどの作業改善の中で、作業のビデオを撮り改善検討を行いますが、その中で、作業スピードが速い方へ話を聞きました。普段はおとなしい方でしたが、ここでの彼女は日頃から効率という点で何を意識し、自身でどのように作業を行うと速く進められるのか、改善のアイディアを複数提案してくれました。また、私はリーダーと一緒に改善ポイントチェック表を作り、一人一人の作業についてどう改善をすべきか、信頼の厚いリーダーを通して作業者へ提案しました。目的は短期間での利益率改善になりますが、継続的な改善の推進ができる体制作りは重要だと認識しています。組織に関わる一人ひとりに期待を込めて参加を促し、自分が会社を変えるぞ、という改革マインドの醸成を心掛けました。
③定期的な打合せとその準備時間の確保
リーダーはパートの中で作業を熟知し有能なため、作業で分からないことを仲間から逐一質問され、それだけで一日が終わってしまうような業務でした。日に数十分、残業代を払い改善の時間に充ててもらい準備いただきました。週に一度はミーティングで私や他のメンバーと相談できる場面を設けて、不安なく前進できるようにしました。
この女性リーダー達は、これまでの仕事とは異なる、改善へ向けた活動を主体的に回す役割を任され、普段以上に輝いているように思いました。普段の口数は少ないがTODOの担当分はグイグイ進める方、良かれと思った改善案をすぐ実行に移してくださる方、会議の最後に本質的な気づきを与えてくれる方と、私やセンター長へその能力を知らしめて、目標達成へむけて組織として機能しました。もともと、センター長が、リーダーの女性たちとの関係性ができており、会社のために、センター長のために仕事をする熱意がプロジェクトの推進力にあったと思います。私は、その熱意に応えるように、相手のアウトプットを大々的に上へ報告する場を用意し、方針があっていれば遠回りなトライを静観しました。また、私の熱意もお伝えすべく、やって見せることや、イメージの具体化に力を入れました。
◆個を生かす、巻き込み型マネジャーとは
まとめると、マネジャーの役割は3点あります。プロジェクトの開始時に、問題認識や改革の目的を明らかにし目指す姿の意識合わせを行うこと、また目指す姿へ向けたTODOを全体に共有すること(①TO DO明示)、組織内のメンバーと関わりを持ち、一人ひとりの仕事への想いを共有、直接的にマネジャーの熱意を伝えることで、各人への期待を表すこと(②期待)プロジェクトメンバーとの定期的な打合せを設定し、メンバーと直接会話をして推進状況を把握、各人の考えを理解し認め合うこと(③定期打合せ)、です。自分の属する組織、会社のために働きたい、役に立ちたいという気持ちは誰しも持ち合わせています。
そういった改革マインドをマネジャーがくすぐる仕掛け作りが重要です。マネジャーが巻き込み力を発揮し、働く人のモチベーション向上を図ることが、組織の目標達成への近道となりそうです。私も試行を続けます。
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>> コラム 前号(第4回:現場と本人と人事部門みなで実現する「一人ひとりが輝く組織」 執筆:チーフ・コンサルタント 才木 利恵子)はこちらから
>> コラム次号(第6回:みんながユニークで特別な時代のキーワード「原則、相互理解、違いを楽しむ」 執筆:チーフ・コンサルタント 増田 さやか)はこちらから
コンサルタントプロフィール
サプライチェーン革新センター チーフ・コンサルタント
沼田 千佳子(ぬまた ちかこ)
SCM改革、在庫適正化のテーマを得意としています。
生産・物流現場における改善等、現場に根付いた活動を推進し、会社の収益改善と人材育成を両輪で進める改革を支援しています。
また、生産管理システム構築の課題整理から業務改革シナリオ策定、導入効果の高いシステム運用へ向けた支援も行っています。