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デジタルトランスフォーメーション(DX)推進のためのITガバナンスの必要性
第3回 :IT構築プロジェクトにおけるPMOの効果的な導入・活用に向けて
株式会社クロスオーバー
中村 夏葵

■はじめに

 筆者は日頃「PMO」という役割(サービス)でIT開発プロジェクトに携わっています。PMOに携わりはじめたのは2009年頃で、その頃は、どれだけサービスとして持続できるものか不明でしたが、結果として引き合いは途切れることなく、むしろ増加の感があります。今日において「PMO」がプロジェクト成功に重要な役割である、と広く一般に認知されていると推測できます。

 しかし、「PMO」がどのような役割、機能を持っているか、ということについては企業や人それぞれに様々な解釈がなされていると思われ「PMO」を導入・活用する側と、サービスとして提供する側双方の認識が乖離し、必ずしも期待値を満たせたといえない事案がしばしば発生しているものと感じます。
 
 今回は、「PMO」が生まれた背景、機能、役割、特性を整理することで、「PMO導入・活用側」におけるその目的や役割の具体的な要件のまとめ方について整理します。
 裏を返すと「PMO提供側」における「PMO導入・活用側」への価値提供・期待値調整(必要な人材調達、組織のフォローアップなど)の参考になると思います。

■背景①プロジェクトマネジメントプロセスの確立

 PMOとは何か、あるべき姿とは何なのかを明らかにするためにまずはプロジェクトマネジメントの発展の経緯を理解します。

 50年代米国にて軍事目的の大規模かつ複雑な開発計画のため、PERT、CPMが実用化、70年代EV、WBSが導入されました。プロジェクトマネジメントが専門分野として定義され、多くの手法が統合され緻密な計画と適切なコントロールが可能となりました。
 
 これらは政府・軍事目的のプロジェクトだけでなく、一般企業の経営手法(業務改革や新製品開発)に用いられ、一定の成果を得ました。しかし、経営層からの期待がより困難な水準となり、特に顧客プロジェクトを請負うビジネスモデルの企業はプロジェクトの成功が競争優位性維持に不可欠となり、プロジェクトマネジメント能力の向上が時代の要請となりました。

■背景②プロジェクトマネジメントプロセス標準の開発

 かつてはQ(品質)、C(コスト)、D(納期)の確保はベテラン社員の経験と勘が頼りでしたが、属人的手法は限界となりプロジェクトマネジメント手法の整備が進みました。代表例がPMBOKガイド(単一プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメント知識体系ガイド)です。
 
 81年にPMIが標準開発開始、87年に“PMBOK”の名前で書籍発行。96年に “PMBOKガイド” (1つの書籍で知識体系の網羅不可との考えのもと名称変更)第1版発行。プロジェクトマネジメントの対象はQCDが基本でしたが、その対象範囲・機能(10知識エリア、49プロセス)が広がったのです。

■背景③プロジェクトマネジメントプロセスの人と組織への展開

 プロセスは確立されましたが、しかし、プロセスを運用する“人”、環境を提供する“組織”自体の能力が伴わなければ、プロジェクトの成功を高められません。
 
 このような背景から、プロジェクトマネージャ個人の能力開発体系(PMCDフレームワーク)、組織のプロジェクトマネジメント能力を評価する成熟度モデル(OPM3)が開発・発行されました。

■背景④単一プロジェクトからプログラム、ポートフォリオへの展開


 一般的に企業は経営課題解決のため、複数プロジェクトを同時並行的に推進ながら経営戦略との整合性を確保し、また合理的な選定、優先順位づけのもと最適な投資判断を必要としていきます。

そのため単一のプロジェクトマネジメントを発展させた、プログラムマネジメント標準、ポートフォリオマネジメント標準が2006年に開発・発行されました。

■背景⑤PMOの出現


 プロジェクトが大規模複雑化し、マネジメント範囲も広範となったため、プロジェクトマネージャ1人が全てコントロールすることは困難となりました。マネジメント(PM補佐、PJ推進)に特化した組織(プロジェクト/プログラムマネジメントオフィス)の形成は必然的なものといえます。

 以降はPMOの具体的な役割、機能について整理します。

 PMOの位置付けは様々あり、役割の明確化も難しくなることがあります。組織形態や役割に関する合意形成なしに動くと、PMOに対する過度な期待、過小評価につながり、PMOの効果に疑問視をあたえる結果に繋がります。

 「PMO導入・活用側」はどのような戦略に基づき導入するのか、「PMO提供側」は、導入側がPMOに対しどのような期待をしているかをきちんと理解し、どのような価値を提供できるかを明確にすることが肝要です。

■PMOの位置づけ


 一般的に、下表のとおり3つに分類できます。

crossover3-1.JPG crossover3-2.JPG
出展:「戦略的PMO新しいプロジェクトマネジメント経営 PMI日本支部著」より

■PMOの役割・機能、与えられる意思決定権限


 PMO・POが担う役割や機能は広範ですが、大別すると下表のとおりに整理されます。役割・機能により意思決定権限の強さも異なってくるなど特徴があり、また、「PMO導入・活用側」と、「PMO提供側」において認識齟齬が出やすい点でもあります。

crossover3-3.JPG

 筆者は現在、某企業における事業拡充および関連IT構築プロジェクト(4チーム数十名体制)のマネジメント支援を前任者より引き継ぐ形で実施しています。
  位置づけ :プロジェクト内PO
  役割・機能:プロジェクト推進支援
 複数部門を跨るため関係者も多岐に亘り且つ先方はIT構築プロジェクトに不慣れなため、PMOの役割・機能としては「プロジェクト推進」が期待されました。

 しかしながら、前任者は先方の認識を取り違え、上表の②の一部乃至③の役割・機能しか果たせず、PMO導入効果が発揮されない状態が継続したため、マネジメント体制の立て直しが先方からの急務課題でした。

 筆者が引き継いだ後、当面の立て直し策として以下対応にあたったことで、先方より一定の評価を得ることができました。
・各会議体へ参加し情報キャッチアップ、リスク検知とその予防策立案
・課題解決に向けプロジェクトメンバや多方面関係者へ積極的なヒアリング、助言の実施
・上記をもとにプロジェクト状況の整備・可視化を行い、先方PMへの意思決定支援の実施

■おわりに


 以上からPMOの役割・機能は多岐にわたり、また円滑なプロジェクト遂行にPMOが欠かせないこともよくわかります。「PMO導入・活用側」「PMO提供側」双方においてPMOの目的や期待する役割について可能な限り明確な要求化と合意を行うこと、またプロジェクト実行中においても、その役割ごとの作業配分について注視し、双方における定期的な期待値調整を行うことがPMOの効果を最大限発揮できるものと考えます。

 なお弊社では、研修として「システム開発プロジェクト計画作成の勘所」を実施しております。PMOとして計画立案に携わることも多いと思いますので、こちらもご参考にして頂ければ幸いです。

>> DX推進のためのビジネスアナリシス研修

>> 第2回 :DX推進における現状把握の重要性(システムグランドデザイン編) はこちらから

>>第4回:デジタルトランスフォーメーション(DX)推進のためのITガバナンスの必要性はこちらから

コンサルタントプロフィール

株式会社クロスオーバー
ITコンサルティング事業部
中村 夏葵(なかむら なつき)

●●さん

大手SI事業者において、政府系金融機関、メガバンク、大手アパレル等のシステム再構築においてPMO、PJリーダ経験後クロスオーバーに入社。

クロスオーバー入社後はJMAC基幹システム再構築基本構想、メガバンク市場系システム再構築案件に従事した。

直近は大手エネルギー関連事業者における事業拡充および関連システム新規構築案件にて、ユーザ側PMO支援を実施している。

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