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「品質保証を支える品質教育体系とカリキュラム」
第5回:「共育」という教育

プリンシパル・コンサルタント 宗 裕二

■ 学びの動機は「興味」である

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 何故、人は学ぶのだろうか?
 私の経験的な理解は、ある対象について「興味」があるから知りたくなり、知るためには学ばないと分からないから学ぶのだと考えているし、それが健全な姿だと思っている。学習について、様々な角度から多くの研究者が研究されていることであろう。そうした研究を本来は確認した上でしっかり論じなければならないのであろうが、ここでは、私の経験から得られた私見を述べることとし、稚拙ではあるが、皆さんの知的好奇心向上と学ぶことが楽しくなるきっかけとなれば幸いである。

 「興味」さえあれば、人は放っておいても学習しようとすると考えている。学習をする為の良い環境があるかどうかは、その時の状況によって異なるであろうが、大抵の場合、自発的な学習を支援する仕組みを企業内に持っている。一定の制約はあっても、「興味」を動機とした学習機会は、その人が望めば与えられるであろう。企業の状況によって、充実、不充実の違いはあるが、概ね好意的に企業は支援してくれる。しかし、担当する業務や事業とは一見関係の無い内容には、まだまだ、積極的な支援はしてもらえない。

 それよりも企業としては、業務として必要な知識や技能を身に着けてもらいたいので、指定した教育項目を義務として(言わば強制的に)受講させようとする。受講する側も、その職場で必要としているのであれば、強制的に受けさせられる教育も仕事の内と割り切って受講する。皆さんも経験があるのではないだろうか。

 さらに、今より良い給料を得るためには昇格が必要で、昇格するためにはTOEICは○○点以上でなければ駄目である。或いは、指定された資格認定試験を受けて合格していなければならないなど、給料を上げるために半ば脅迫されて勉強に時間を割いた経験などを持っている人もおられるのではないだろうか。最も、かつて私たちが経験した大学入学試験は同様に「脅迫」されて受けているような部分も無きにしも非ずで、慣れてしまっているのかも知れない。以前、別の機会に書かせていただいたことがあるが、「脅迫」によって学んだ知識は、目的を達成してしまえば、あっと言う間に忘れてしまうし、「強制」的に学んだ知識も必要最低限のことだけが身に着き、必要としない環境が変われば、これもあっと言う間に忘れてしまう。しかし、「興味」を持って取り組んだ勉強はいつまでも忘れないし、様々な場面で役に立ってくれる。出来れば常に、興味を持って学びたいものだ。

■ 「脅迫」「強制」も興味に変える

 しかし、現実問題は厳しく、業務上必要な教育は教える側も、学ぶ側も、必要な教育は「強制」であったり、「脅迫」であったりするのである。何とか、この「脅迫」や「強制」といった学びの動機を、「興味」に変えることができないであろうか。
 
 少し、唐突かも知れないが、私は若いころに「基礎スキー」にはまっていた頃がある。
 基礎スキーというのは、如何に美しく滑るかを競うもので、パラレル・トレインやマス・ファーレンのような団体競技もある。何名かのスキーヤーが電車のように連なって滑ったり、三角形の陣形を崩さずに同じ調子でウェーデルンを滑ってきたりするものだ。勿論団体演技にたどり着くまでには相当の練習が必要だが、私もその入り口に入るため、学生時代の冬は新潟県の浦佐にあるスキー学校へ通っていた。
 このスキー学校は基礎スキーを志す方々には有名で、当時は少々厳しめの教育を実施する傾向が強かった。現在の姿は知らないが、大学の体育会系の合宿なども行われていた。入学するときに実技試験があり、腕前ならぬ足前を評価されてクラス分けされる。ある程度、上級クラスに評価されるようになった時のことである。毎朝の準備運動が、ストックを山頂に置いたまま、斜度30度ほどの腰まであるコブ斜面を、後ろ手に組んだ姿勢で、「落ちろ!!」というものであった。これを毎朝3セットやる。「鍛えるためなのだ」と、何となく思っていたが、ある時、ふと気が付いた。
 
 今はスキーの板も進化して変わってしまったので分からないが、スキー板の重心は、ほぼ、前後方向の真ん中にあるが、靴を固定するビンディングは後方三分の一くらいのところにある。従って、スキーをコントロールするためには、相当な前傾姿勢を取らなければならない。それを急な斜面で下に向かって姿勢を作ることは、ほぼ頭から突っ込んでいくイメージとなる。ところが、やはり怖いので、一寸のコブで飛ばされると気持ちが負けてしまう。いわゆる「腰が引ける」状態となり、あっと言う間にスキーコントロールを失ってクラッシュする。「そうか、転ぶ前に、転ぶと自分で決めているのか」と、気が付いた。「怖いと思った瞬間に腰が引ける、腰が引けると重心が後ろに行く、するとたちまちコントロールを失うので転ぶしかなくなる」のだと。私の人生のターニングポイントであったと言っても過言ではない。ここから拡大解釈をして、「何事も気持ちが先行する」と考えるようになった。
 
 「脅迫」、或いは「強制」だと感じているのは自分自身である。誰のことばであったか忘れてしまったが、「世の中で自分の自由になるものは、自分の気持ち以外には何もない」という、ことばがある。まったくその通りであると思っていて、「やりたくもない教育を、しなければならない」と考えているのは自分自身なのである。
「面白そうじゃないか」と考えを変えることが出来るのも自分自身である。自分の気持ちは、世の中で唯一「変えることが出来るもの」なのだから、大いに変えれば良い。同じ時間を過ごすなら楽しい方がいいではないか。時々、世のアスリート達が口にする「楽しみたいと思います」は、きっとこのことなのだろう。

■ 教育より「共育」と帰結した理由

 教育を受ける側は、気持ちの切り替えで「興味」をもって、教育を受けるように切り替えることが必要なのはわかったとしよう。しかし、教育を実施する側、つまり、教育企画の担当者や講師を務める人などは、どのように「興味」を動機とする教育方法に切り替えれば良いのであろうか。

 これも私事で恐縮だが、学生時代に教育実習に赴いたことがある。その時の受け入れ先の指導教諭が、「中学生は5分しか集中できない。だから、45分間の授業の中の5分間で、何を学んで帰って欲しいかを決め、その5分間の為だけに40分を組み立てるのだ。」という。特に数学が担当であったので、「興味なし」の子供たちが多くいた。中学校がかなり荒れていた時代でもあったので、貴重な経験もさせて貰った。つまり、5分間に如何に興味を持ってもらうかを考えた構成にせよと言うことだ。

 この考え方は今でも役に立っている。アメリカ式のパラグラフライティングでは、「最初に言いたいことを言え」となるのだろうが、日本人はそうした教育をあまり受けていない。また、文法的にはそのような構成にはなり難いのだと思う。工夫して5分間に興味を持ってもらうための構成を考えてみるのも良いであろう。その為にも必要な要素は「共育」という考え方だと思う。

 つまり、共に育つのだと考え、その為のリーダーシップや、きっかけを与えるためには、何をどのように議論すれば良いか検討し、教育進行の構成を考え、是非伝えたい「5分間」を演出してお互いの為に共有したいと考えることが必要だと思う。
 

■ 原点は「共感」にあり

 「共育」を実現するためには、講師、或いは教育企画担当者と、受講者とが問題や課題を共有し、「共感」することが重要であると考えている。

 企業内教育は、上から目線で「教えてやる」のでは決してなく、共に育つために、共感する議題について議論する場であり、講師は自分自身が育つためにも、上手にリーダーシップを取って進める必要があるのだと思う。議論を進める為の必要な基礎知識は、既に備えていてあろう講師が、議論の場に披露して共有し、教育の終盤では、「共に発展するためには、このようにしようじゃないか!」と締めくくるつもりで良いのではないだろうか。

 まず、共感することから教育企画がはじまるのかも知れない。共感すべき事柄や、共感すべき人々は、時代と共に大きく、さらに大きく変化する。

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コンサルタントプロフィール

プリンシパル・コンサルタント /品質経営研究所 所長
/国際経営コンサルティング協会評議会認定CMC
/技術士(登録番号第25742番;経営工学部門品質管理)
/(公社)全日本能率連盟 専務理事(兼業)
宗 裕二(そう ゆうじ)

宗さん

現場力の重要性を強く意識し、専門領域である「品質」を中心視座として、日々活動している。

モノづくり企業に求められる品質構築機能は、「最大の価値と、最小のリスクを、最短の時間で創出できる変換機能を構築する」ことであり、「結果としてミニマムコストのモノづくりが可能となり、最高の利益を獲得出来る」ことになると考え、「品質経営」として提唱している。その為に、「従業員の一人一人が、無意識のうちに、顧客価値を予見した行動を取れる文化を築く」ことが重要課題と位置づけ、その推進に力を入れている。

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