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プロフィット・デザイン2.0 ~持続的な利益をデザインする~
第6回:様々なプロフィット・デザイン
シニア・コンサルタント 横山 隆史
■はじめに
初版から10数年の時間が経過しましたが、たくさんのクライアントから支持を頂いており、また昨今の厳しい社会・経済環境に対応していくためには必要不可欠となる考え方だと自負しております。
今般、社会・経済環境の変化に合わせて若干の加筆・修正を行ったものを、本コラムにて計8回にわけてお届けします。
第5回までは、プロフィット・デザインの基本的な概念を紹介してきました。
顧客のプロセスに呼応して、プロフィット・ステップにより連鎖的に価値を提供していくこと、そしてプロフィット・ステップを実現するためにはフック・ロック・チャージの要素を充足させる必要があること、をご案内してきました。
第6回と第7回では、プロフィット・デザインを実現するために、もう少し実践的なモデルをみていくことにします。
ここでは、「プラットフォーム・モデル」「顧客密着モデル」「フリーのモデル」「“場”のモデル」をご紹介します。
1.プラットフォーム・モデル
利益を生み出すプラットフォームに顧客を乗せる
ここでいうプラットフォームとは、いわば持続的な利益を生み出すための“畑“ のような機能をもつものです。そして、その “畑“からあたかも “果実“のように利益が生み出されるしくみをプラットフォーム・モデルと呼んでいます。
【図11】
これまで紹介してきた事例の多くは、このプラットフォーム・モデルに当てはまると考えられます。プリンタの事例では、プリンタ本体がプラットフォームとなり、インクが果実となっています。スマートフォンでは、スマートフォンの機器がプラットフォームとなり、通話料やパケット料が果実に該当します。このように、顧客をあるプラットフォームに乗せることで、別の形で持続的に “果実”を得るしくみがこのプラットフォーム・モデルとなります。
ポイントは、何がプラットフォームになるのかを見定め、そのプラットフォームに顧客を乗せることです。このようなモデルが構築されると、顧客は安易に他のプラットフォームへ乗り換えることが難しくなります。多くの場合、そのプラットフォームに乗り続ける方が満足度は高揚し、逆に他のプラットフォームに乗り換えてしまうと、色々なコストや手間がかかるようになってしまいます。
顧客のプロセスの前後を狙う
いわゆる “単品売り切り” の事業となっている会社にとっては、プラットフォーム・モデルのようなビジネスを展開していくことに疑問・抵抗を感じています。実現性に乏しいと思われるようですが、実は多くの製品・サービスにおいて成立する可能性があります。
その検討視点の一つ目としては、
顧客のプロセスの前後を狙う
ということです。
顧客のプロセスの前後を取り込むという視点がなく、機会損失している事例は数多く見受けられます。典型例はテレビではないでしょうか。テレビを製造・販売している大手電機メーカーは、テレビそのものの機能ばかりにフォーカスする傾向にあります。画面のサイズ、画像の美しさ、多機能化、デザイン性など、テレビそのものに着目するあまり、顧客がテレビを購入した後に何をしているのか、という着眼が抜け落ちている感があります。もし顧客のプロセスを取り込むという視点があれば、テレビをプラットフォームとしたコンテンツ売り、という着眼はかならず生じるはずなのですが (現在ようやく緒についた製品が出始めていると考えています)。
顧客の前後プロセスをうまく取り込んでいるのが、先にもご紹介した自動車業界です。一見すると自動車そのものの販売で収益を上げていると捉えられますが、自動車メーカー各社は顧客の購買後のプロセスを確実に取り込んでいます。ローンや保険、修理や交換、売却・廃棄といったアフターが代表例です。コマツのKOMTRAXやスマートコンストラクションもこのプラットフォーム・モデルが当てはまるでしょう。GPSを搭載した建設機械がプラットフォームとなり、稼働情報を吸い上げることで修理・保守・代替といった顧客の購買後のプロセスを取り込もうとしています。
既存の製品・サービスを分割する
もう一つの検討視点としては、
既存の製品・サービスをあえて分割する
というものがあります。一体として提供していた製品を、片方をあえてプラットフォームとし、もう片方を果実とするものです。
旅行業界で興味深い事例があります。ある旅行代理店の取り組みです。旅行は典型的な “売り切り” の商品とみなされ、シーズンが代わるたびに企画・開発に追われている状況です。そこで、旅行をあえてテーマと旅行そのものに分割したのです。「世界遺産を巡る」「シルクロードを巡る」 といったテーマをプラットフォームとしたのですが、もちろん、世界遺産やシルクロードを一度にすべてを観ることは、多くの旅行者にとっては現実的ではありません。そのため、「世界遺産」「シルクロード」というテーマをプラットフォームとして、それらをすべて巡るためにあえて旅行を数度に分割して提供し、旅行者に達成感を味わってもらおうという意図なのです。
このように見ると、プラットフォーム・モデルは非常に興味深く、一見すると“売り切り“ とみられる多くの製品・サービスにおいて適用する余地があるのです。
2.顧客密着モデル
顧客を “無能化” する
このモデルは、顧客に密着することで、顧客が有している情報・知識をロックしようとするものです。顧客が有する情報・知識をコントロール下に置くことで、顧客は “記憶する・考える” という煩雑な行動から解放されることとなります。これを端的に言うならば
顧客を無能化する
ということになります。非常に響きの悪い言葉なのですが、決して悪い意味で用いてはいません。顧客は “記憶する・考える” という煩雑さから解放されるので、顧客にとっては大幅な負担減となる、メリットの大きいモデルなのです。
【図12】
イメージしやすい事例は、先にも述べたスマートフォンの事例です。スマートフォンの電話帳機能には、我々が連絡したい相手の電話番号・メールアドレスを記憶させています。つまり、“記憶する” という人間本来の機能をスマートフォンが代替してくれているわけであり、無能化されているのです。
卑近な事例かもしれませんが、最近、漢字を書けないビジネスマンが増えています。これも、パソコンに漢字変換機能があるため、パソコンによって無能化されているのです。
また、仕事・業務の面においても無能化されている事例はたくさんあります。ある銀行の融資審査部長と話していたのですが、「決算書がシステムで分析・加工されてしまうので、現場の融資担当者が決算書を分析できなくなっているんですよ。昔は自ら手計算で分析したものですけどね」 とおっしゃっていました。まさに決算分析という機能がシステムに代行され、融資担当者が無能化されているのです。ですが、融資担当者が個々に決算書を分析・加工するよりも効率性・正確性ともにはるかに勝るのです。
最近ではクラウドサービスがすっかり浸透しましたが、これも情報の外部化を進め、無能化の端緒となる可能性があると想定されます。クラウドでサービスを提供する各社が顧客情報を囲い込むこととなりますので、顧客はますます “記憶する・考える” 機能を有する必要がなくなってくるのです。一方、情報にかかる品質・コスト・スピードについては外部化した方がメリットは高く、情報の消失リスクを考えても、この流れはさらに拡大・加速していくでしょう。
顧客の無能化は、B to Bで進んでいく
顧客密着モデルは 「B to C」、すなわち一般消費者を相手としたビジネスよりも 「B to B」、企業相手のビジネスで適用余地が高いものと想定されます。一個人が有している情報量・知識量というのは知れたる量であり、他へのスイッチをためらうほどのものではないと想定されます。一方で、「B to B」 においては顧客の情報量は圧倒的に多くなります。つまり、圧倒的な情報量をいったん囲い込んでしまえば、元に戻すためのスイッチング・コストは非常に高くなるのです。
コマツのKOMTORAXやスマートコンストラクションは、プラットフォーム・モデルと顧客密着モデルを掛け合わせたものと考えられます。建設機械がプラットフォームとなり、そこから吸い上げられる情報で顧客をロックし、着実に収益につなげる構図と言うことができます。
>> 「第5回:プロフィット・デザインを成立させる3つの要素 ~その2~」はこちら
>> 「第7回:様々なプロフィット・デザイン ~その2~」はこちら
>> 関連する研修:「プロフィット・デザインを活用した新規事業発想研修」
コンサルタントプロフィール
経営戦略事業部 シニア・コンサルタント
横山 隆史(よこやま たかし)
政府系金融機関で、営業・審査業務を経験し、当社入社。
前職での経験を活かしてアカウンティング・ファイナンス等の分野で強みを発揮しながら、経営戦略、マーケティング等へ領域を広げてきた。
新規事業検討、ビジョン・中期経営計画策定、ビジネスモデル構築、企業/事業再生等といった分野で実績がある。
近年においては、新たなビジネスモデルの概念「プロフィット・デザイン」の普及に取り組むと同時に、次世代の経営人材育成支援に取り組んでいる。