コラムCOLUMN

  1. TOP
  2. コラム
  3. プロフィット・デザイン2.0 ~持続的な利益をデザインする~ 第4回:プロフィット・デザインを成立させる3つの要素シニア・コンサルタント 横山 隆史

プロフィット・デザイン2.0 ~持続的な利益をデザインする~
第4回:プロフィット・デザインを成立させる3つの要素
シニア・コンサルタント 横山 隆史

■はじめに

mcb1.jpg

 プロフィット・デザインは、これまでの戦略・計画立案における手法やプロセスに限界を感じ、昨今の厳しい経営環境下においても持続的に利益を獲得している企業を研究し、新たな戦略発想の基軸として提唱したものです。 
 初版から10数年の時間が経過しましたが、たくさんのクライアントから支持を頂いており、また昨今の厳しい社会・経済環境に対応していくためには必要不可欠となる考え方だと自負しております。

 今般、社会・経済環境の変化に合わせて若干の加筆・修正を行ったものを、本コラムにて計8回にわけてお届けします。

 第3回までは、顧客のプロセスに呼応して連鎖的に価値を提供する、プロフィット・ステップという考え方をご紹介しました。
 このようなプロフィット・ステップを実現した企業をみると、羨望の思いを感じられるかもしれません。
 顧客との持続的な関係構築を実現した企業は、将来の大きな利益が約束されているのです。
 このようなプロフィット・ステップを実現するためには押さえるべき要素があります。
 以降、3つの要素に分けて説明していきます。

1.フック要素

顧客を魅了する
 “フック” とは文字通り、顧客の 「買いたい」 という欲求に引っ掛かる (フックする) ような、顧客を魅了する要素のことを指しています。プロフィット・デザインを実現するためには、まず顧客にプロフィット・ステップの一段目に乗ってもらわなければなりません。そのためには顧客の 「買いたい」 という欲求を刺激するような要素が不可欠となってきます。

QCDだけでは顧客を魅了できない
 Q:Quality(品質)、C:Cost(価格)、D:Delivery(納期)は、日本企業における競争力の根幹であると考えられます。特にメーカーにとってこのQCDは生命線とも言えるもので、QCDを高めることで厳しい国際競争を勝ち残ってきたと言うことができるのではないでしょうか
 
 しかし、QCDだけでは顧客を魅了できなくなってきたようです。価格・納期について厳しい要求を突き付ける顧客をイメージして下さい。顧客はその製品・サービスに対する知識・経験を十分に持っている、と想像できないでしょうか?さらには、顧客側には豊富な選択肢があり、残る選別基準は価格と納期だけ、と考えられないでしょうか?
 
 つまり、QCDが顧客の選別基準になっているということは、その製品・サービスは競合と大差がない、ということになってしまうのです。このような製品・サービスの場合、まずはQCDによる競争から抜け出ることを考えなければなりません。

顧客を魅了するためには、競争上のポイントをずらす
 この点については、スマートフォンの浸透を例にすると理解しやすいものと思われます。
 スマートフォンが現れた当初、従来型の携帯電話 (いわゆるガラケー、フューチャーフォン) メーカーはこれほどまで急速にスマートフォンが浸透するとは想定していなかったのではないでしょうか。なぜなら、各メーカーはインタビューやアンケートを通じて顧客要求をしっかりと把握し、十分に応えてきた自負があったからです。顧客要求としては、カメラの画素数、メール機能の充実、決済機能、等があげられます。これらの機能を強化することに競争上の焦点があてられていたのです。
 
 しかし、スマートフォンはインターネットとアプリという、従来とはまったく異なる競争ポイントで参入してきました。従来型の携帯電話において、インターネットは非常に限定的な利用しかできませんでしたが、スマートフォンはそこへ切り込んできたのです。かつ、従来型の携帯電話とは比較にならない豊富なアプリで、ほぼ自分好みにカスタマイズできるのです。競争上のポイントを生み出したからこそ、急速な普及・浸透が進んだものと想定されます。
 
 顧客を魅了するためには、それまでの競争上のポイントをずらさなければなりません。知れたる競争上のポイントで勝負しても、競合との厳しい競争は回避できません。競争上のポイントをずらすことができれば、ビジネスの新境地を開くことができるのです。スマートフォンは、既存の携帯電話を代替しただけでなく、競争上のポイントをずらすことでまさに新境地を開き、新たな価値を社会に提供したと言うことができるでしょう。
【図7参照】

mcb1-7.jpg

2.ロック要素

顧客を離さない
 プロフィット・デザインの検討において、最も重要となるのがこのロック要素の検討です。利益を持続的に生み出すためには、顧客との良好な関係を構築し、顧客から選択され続け、購入され続けなければなりません。顧客のスイッチング・コストを高め、離反を防止し、購入し続けてもらうための要素がロック要素となります。

顧客の “使い方・方法” をロックする
 顧客は、ある製品・サービスをいったん利用し始めると、必ずその使い方・方法を習熟しなければなりません。そして、いったんある使い方・方法を習熟してしまうと、新たな使い方・方法に移ることはためらってしまう傾向があります。なぜなら、新たな使い方・方法を習熟するためには、これまでに習熟してきたものを捨てなければなりません。さらに、新たな使い方・方法を習熟するための手間・時間がかかってしまいます。この手間・時間は、顧客のスイッチング・コストを高め、顧客をロックする大きな要素となります。
 
 ここで、スポーツクラブ事業を展開するコナミスポーツ&ライフが提供する「e-エグザス」 というサービス事例を紹介します。このサービスでは、スポーツクラブの会員にICを組み込んだ 「個人認証キー」 というものを配布しています。そして、そのICに運動履歴を記録させ、健康管理に役立ててもらうというサービスを提供しています。
 
 履歴を残す範囲はスポーツクラブ内にとどまりません。例えば、屋外でウォーキングする際に指定された万歩計を利用すれば、そのデータも履歴として残されます。家庭内でも体重計のデータを履歴として残すことができます。そして、蓄積された履歴はインターネット上の個人ホームページで確認・管理することが可能となっています。
 
 同社はこのサービスを通じて 「クラブ・外出先・家庭の3つのシーンをつなぐ」 とうたっており、まさに顧客の “健康を丸抱え” していると言うことができます。このような卓越した “使い方・方法” をいったん習熟すれば、顧客はそう簡単にはスイッチできなくなります。もし個人でこれだけの管理をしようとすれば、相当な手間・時間がかかってしまうことは容易に想像できるからです。

顧客の“持ち物”をロックする
 さらに顧客のロックを強固なものとするためは、顧客の “持ち物” をロックする、という視点が重要となってきます。
 「e-エグザス」 の場合、運動履歴に関する情報はすべてコナミが有するセンターサーバーに蓄積されますが、ここが非常に重要なポイントとなっています。顧客の健康履歴に関する情報、すなわち顧客の “持ち物” はすべてコナミ側がコントロールしているということになるからです。
 
 顧客にとって大切な “持ち物” である運動履歴情報が蓄積されればされるほど、他へのスイッチが難しくなってきます (事実、このサービスの利用停止と同時にデータはサーバから消去されるような仕組みになっているとのことです)。さらに、コナミとしてはこの情報を活用して顧客個々に最適な健康管理の提案を進めており、顧客との関係をますます強固にしているのです。
 
 優れたビジネスは、顧客の “持ち物” を確実にロックしています。コマツのKOMTRAXの事例では、顧客が本来持っているはずの建設機械の稼働情報をコマツが収集しています。喜久屋の事例では、顧客の(特に冬物)衣類をロックしています。他には、Microsoftも典型例です。ワードやエクセル・パワーポイント上に顧客の情報がどんどん蓄積されていき、ソフトを変えようという気さえ起こりません。
【図8参照】

mcb1-8.jpg

ロックできる顧客の“持ち物”とは
 顧客の “持ち物” を自社のコントロール下におければ、顧客はそう簡単に他へスイッチすることができなくなります。顧客にとって自己の “持ち物” は大切なものであり、スイッチすることはすなわち “持ち物” を放棄することになるからです。その “持ち物” の個別性、つまり他では代替できない固有度合いが高ければ高いほど、ロック要素として強固なものであると言うことができます。

 “持ち物” として想定できるものとしては、まずは

 物理的な “モノ”

 です。
 喜久屋の事例では、衣類という物理的なものをコントロール下においています。
 
 次に考えられるのが、

 顧客が有している “情報”

 です。

 コマツの事例では、顧客の稼働情報をコマツがコントロールしていると言えるでしょう。また、コナミの事例では、顧客の運動履歴を握っていると言えます。
 このような情報のロックはデジタル化が進展した昨今、至るところで見受けられます。典型例がスマートフォンです。スマートフォンの中には、連絡したい相手の電話番号やメールアドレスがぎっしり詰まっています。もしスマートフォンをなくしてしまったら、家族にすら連絡できなくなってしまう人も多いのではないでしょうか。このような情報の外部化、すなわち情報をロックすることは、顧客に対して高い利便性を提供する一方で、強力なロック要素として機能することになります。
 
 さらに強いロックの対象があります。それは

 顧客が有している “関係性・つながり”

 です。
 
 SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が典型的な事例で、例えばフェイスブックやツィッターですが、顧客相互の関係性をロックしているサービスということができます。顧客の一方がサービスを停止すると、友人・知人との関係性が絶たれたり、今後のコミュニケーションに大きな支障が生じてしまう不安もあるからです。 “関係性・つながり” をロックできれば、顧客にとっての第三者(知人・友人など)へ影響を及ぼすために、非常に強いスイッチング・コストとして機能することとなります。

>> 「第3回:顧客プロセスとプロフィット・ステップ」はこちら

>> 「第5回:プロフィット・デザインを成立させる3つの要素 その2」はこちら

>> 関連する研修:「プロフィット・デザインを活用した新規事業発想研修」

コンサルタントプロフィール

経営戦略事業部 シニア・コンサルタント
横山 隆史(よこやま たかし)

横山さん

政府系金融機関で、営業・審査業務を経験し、当社入社。
前職での経験を活かしてアカウンティング・ファイナンス等の分野で強みを発揮しながら、経営戦略、マーケティング等へ領域を広げてきた。
新規事業検討、ビジョン・中期経営計画策定、ビジネスモデル構築、企業/事業再生等といった分野で実績がある。
近年においては、新たなビジネスモデルの概念「プロフィット・デザイン」の普及に取り組むと同時に、次世代の経営人材育成支援に取り組んでいる。

一覧に戻る

企業のご担当者様へ

人材育成に関するご相談やお悩みなど、お気軽にお問い合わせください。

CONTACT お問い合わせ