コラムCOLUMN
事業開発実践力養成研修
第3回:ビジネスチャンス探索
シニア・コンサルタント 池田 裕一
1.ビジネスチャンス探索のための情報収集
ビジネスチャンス探索では、まず候補分野の情報収集を行うことになります。
情報収集の種類としては、文献・資料による情報収集、インタビュー・アンケートによる情報収集、現場観察による情報収集があげられます。
まず、情報収集力をつけるには、情報の見つけ方、増やし方を身につけることが有効です。一つの情報源を徹底活用すれば、イモヅル式に情報源は拡がるためです。
今までの情報力は、自社の専門分野を深く掘り下げてきました。また外部の情報についてはニュース記事など公開情報を集めてきたと思います。しかし新商品・新事業開発を進めるにはそれだけの情報力では不充分です。これからの情報力は、自社の専門知識だけでなく他分野の一般情報や専門情報も幅広く取り込む必要があるのです。
またニュース記事だけでなく、インタビューなどの外部のインフォーマル情報を積極的に集めることでビジネスチャンスを見つけることにつながるかもしれません。現に新商品・新事業の発案の元をたどると、異業種の企業との会話のなかでヒントを得たということも多いのです。
2.革新が進む市場を捉える
成長市場とはライフサイクル上、探索期から成長期に位置付けられる市場で著しく伸長している市場を指します。成長市場に着目するのは当然ですが、一方で、成熟期にある中で革新が進む市場は、案外忘れられがちではないでしょうか。
マクロ的にはその市場は成熟期であっても、個別に見ていくと成長期と衰退期があって、通算すると成熟期になるような市場があります。成熟の中の成長市場は調べないと分からなかったり、その業界にいないとわからなかったりするため、市場細分化を意識することで他社よりも先にビジネスチャンスを見つけることが可能になるかもしれません。
3.顧客からチャンスをつかむ
新商品・新事業の起点は顧客や社会が求めるものです。ニーズなくして事業は成立しません。
ニーズを分析するには以下のステップで行います。
・全体の流れ、市場の変化を知る
・顧客ニーズを直接つかむ
・ニーズを分析する
顧客の意見・ニーズの裏返しがビジネスチャンスとは限りません。顧客の意見はなんらかの背景や因果関係があり、このためその上位になる本質的なニーズを分析する必要があると言えるでしょう。ヒアリングしてきたニーズや現場で発見したニーズを掘り下げてみると、基本ニーズ(上位ニーズ)が見出されてきます。その上位ニーズから課題解決の方策を洗い出してビジネスチャンスを導いていくのです。
「なぜ、そのニーズが生まれたのか」「なぜ、発言者はそのニーズを口にしたか」を深く追求し、真のニーズを探ることが重要です。
4. SN変換による用途市場の創出
自社の技術、ノウハウや設備は既存事業で培われたものであり、何かほかに使えないかと探っても用途はなかなか見つかりません。技術、ノウハウ、設備そのもので新用途を探すのではなく、技術、ノウハウ、設備を顧客から見た価値に置き換えてみるとよいでしょう。
SN変換(Seeds/Needs変換)とは、従来は存在しない新用途市場のアイディアの発想を円滑にするために、商品の持っている技術的な特性(Seeds)を「顧客にどのような利点(価値)を与えうるか」という顧客側の言葉(Needs)に変換し、新たな使い方を抽出するための発想技法であり、企業各社で応用されている手法です。
まず図表の左側では、自社の強みとなっている技術、ノウハウ、設備資産が、「顧客にとってどのような価値・機能を発揮しているか」に変換します。
プロジェクトに営業のメンバーを入れることで、「普段顧客からどのような要望をもらっているか、顧客はどのような利用の仕方を求めているか」を挙げてもらうとリストアップがしやすいでしょう。
1つの強み特性で1つの価値・機能を発揮しているものもあれば、複数の強み特性で1つの価値・機能を発揮しているものもあります。表では縦横のマトリックスの該当するセルに印を入れておきます。
つぎに図表の右側を作成します。
リストアップしたNeedsこそ、自社が今後展開でき得る市場創造の視点と言えます。自社は顧客に与え得る価値をどのような市場に展開できそうか、Marketを整理します。Marketの区分は市場区分であり、生産財であれば業種・業界の区分であり、消費財であれば生活者の区分などです。
NeedsとMarketのマトリックスができたら、Needsのキーワードを軸に新商品・新事業を可能な限り発想します。セルの中に入るのは新商品・新事業名です。このSN変換では強み特性からキーワード(Needsの言葉)を導き、そのキーワードを軸に発想していくので具体的なアイディアが出やすいです。
マトリックスの利点として、空白のセルがある場合、その前後左右のアイディアを参考にさらにそのセルに埋められるアイディアがないかを考えます。つまり、この発想法は強制的にアイディアを発想させる手法なのです。
1人のアイディアでは限界がありますが、チームやプロジェクトメンバーでアイディア創出を行えば、100以上のアイディアを出すことも可能になってくるのです。
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コンサルタントプロフィール
R&Dコンサルティング事業本部 技術戦略センター
シニア・コンサルタント
池田 裕一
機械販売会社の財務部門を経て、1990年(株)日本能率協会コンサルティングに入社。
以降、メーカーやサービス業を対象とした新製品・新規事業探索、開発テーマ設定、新製品・新規事業企画、新事業評価などのコンサルティング、研修、講演にあたる。
著書「新規事業・新用途開発技法とテンプレート」日本能率協会総合研究所「開発者のためのマーケティング」同文館出版など