コラムCOLUMN
デジタルトランスフォーメーション(DX)推進のための
ITガバナンスの必要性
第2回 :DX推進における現状把握の重要性(システムグランドデザイン編)
株式会社クロスオーバー 取締役ITコンサルティング事業部長
岩井 知洋
■はじめに
「ERP導入プロジェクトを進めているが、周辺システムの考慮が足りなかったため、大きな手戻りが発生している」「顧客接点強化のためにCRMパッケージの導入は決めたが、取り込む既存システムの実態が分からずプロジェクトが停滞している」等々、最近、DX (*1)の名の元に始めたプロセスや商品・サービスのデジタル化において、要件や計画の見直しを迫られているプロジェクトからの相談があります。
そのような事象が発生した原因を紐解くと、業務システムの現状把握が足りていない中でビジョンが先行した結果、大きな乖離が発生したということが多く見受けられます。
これは古くて新しい問題ですが、DXを進める上でシステム開発がスクラッチからパッケージ主流へと移り、現状把握の重要性がさらに増してきております。
*1 DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や 社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
経済産業省の「DX推進指標」より
今回は、DX推進における業務システムの現状把握の重要性について、4つの観点から整理してみます。
1. 現状把握①:DXにおける適用技術と業務の関係
DXを進めるには、ビジネス戦略から始まり、変革すべき業務機能や活用するIT技術等を整理することになります。
そのためには、現在の事業・業務の棚卸を行い、業務の特性(経営管理業務・経営基本業務)や技術動向(Traditional Technology、New Technology)を踏まえた整理をします。
なお、システム化に向けては、DX検討の際に活用されるシステム設計の概念(SoE、SoR、SoI)を参考にしながら、方向性を検討していきます。それぞれの概要は以下となります。
・SoE(Systems of Engagement)(*2)
顧客を起点として、変化し続ける顧客ニーズや行動パターンに柔軟に対応するシステム
・SoR(System of Records)(*2)
業務上の重要なデータの蓄積・管理を重視するシステム
・SoI(System of Insight)
SoE、SoRを組み合わせて分析を行い、顧客インサイトの洞察を得るためのシステム
*2 経済産業省「DXレポート」より
2.現状把握②:事業・業務と既存システムの関係
システムがカバーする業務が拡大していく中、既存システムを調査し全体を俯瞰できるようにすることは、関係者との共通認識、影響範囲の確認といった観点からも重要となります。
ここでは、事業・業務における既存システムとの関係を整理するやり方を示します。整理の際には、使用しているエクセルファイルや各種ツール等も合わせて記載します。
マッピングすることにより、各事業においてシステムを一部の業務に適用しているもの、業務全体で活用しているもの、エクセル等で対応しているものを確認することもできるようになります。
業務システムのDXを進める際には、統合や共通化、自動化等、様々なことを検討しますが、事業・業務と既存システム関係を整理することで検討の幅が広がり、抜け漏れ防止や認識合わせ等に役立ちます。
3.現状把握③:データの把握
データの分析・活用が重視される中、データ分析は部分的な範囲に留まっているのが現状です。
出典:「デジタル化の取組みに関する調査2020」日本情報システム・ユーザー協会より
データを把握するには、業務システムとして扱っている情報を整理することから始めます。業務で扱う情報は、既存システムで扱うデータ以外(エクセル、メール等)も含めて調査し、全体を捉えるようにします。
また、既存システムのデータのみに着目してしまうと、現在の使われ方を間違って理解する可能性もあるため注意が必要です。本来のデータ項目とは別の目的で使用している等、よくある話です。そのため、整理は画面・帳票等の入出力情報を活用しながら進めます。
同様な整理は、システム開発の現状調査では良く行われます。ただし、システム開発のプロセスに入ってしまうと範囲が限定され、部分的な分析に留まる可能性が高くなります。 特にパッケージ導入の場合は、導入するパッケージを前提として要件定義を進めるため、その前に全体の情報を把握し、適切なパッケージを選択できるよう準備しておくことが重要となります。
4.現状把握④:プロセスの把握
プロセスには大きく概要レベル・詳細レベルがあり、さらにそれぞれにおいても目的に応じた粒度を設定し、記載していきます。
概要レベル:バリューチェーンの機能、商品・サービス・営業方式、実行単位等
詳細レベル:組織間でのハンドオフ、役割間でのハンドオフ、作業単位等
※なお、詳細レベルでは、「現状把握③:データの把握」で活用した画面・帳票等も記載されます。
プロセスを記載することにより、キープロセスやバリエーションの確認ができ、業務ルールやイレギュラー処理等についても把握することができます。また、課題箇所の共有や新しいプロセス設計における現状とのFIT&GAPにも活用できます。
現状分析を詳細におこなう程、後工程でのリスクを軽減できますが、実際には時間や体制等の制約も踏まえ把握レベルを判断することになります。 そのため、知見者やドキュメントが不足していることが予め分かっている範囲は、早い段階で詳細調査を開始する等の工夫をしながらリスク回避をしていきます。 また、AIやIoT、RPAの導入も増えてきており、こちらも現状把握しておかないといつの間にか放置され(野良化)、レガシー化することになりますので注意が必要です。
今回は、DX推進における業務システムの現状把握の重要性について、4つの観点からご紹介しました。 今回はビジネス戦略策定については触れませんでしたが、弊社では、研修として「DX推進のためのビジネスアナリシス研修」を実施しておりますので、こちらもご参考頂ければ幸いです。 次回は、PMOの現場で奮戦するメンバからのレポートを掲載予定です。
>> 第3回 :DX推進における現状把握の重要性(システムグランドデザイン編) はこちらから
>> DXレポート2(中間まとめ)令和2年12:月28日:デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会
コンサルタントプロフィール
株式会社クロスオーバー
取締役 ITコンサルティング事業部 事業部長
岩井 知洋(いわい ともひろ)
大手SI事業者にて、大規模開発のPMを経験後、日本能率協会コンサルティング(JMAC)に入社し、金融から物流、自治体まで幅広くシステムグランドデザインやシステム化企画、業務分析・改善等の支援に従事した。
近年は、JMACのグループ会社であるクロスオーバーにて、メガバンク、政令市、大手アパレル、製造業等におけるシステム再構築やインフラアウトソーシングの案件等のシステム化企画やユーザー側のPMOを中心に支援している。