コラムCOLUMN
「実践的人事評価関連研修のポイント」
第6回:被評価者のセルフマネジメント
チーフ・コンサルタント 奥野 陽、コンサルタント 市山 しほり
■はじめに
本コラムでは、人事担当者向けに、人事評価制度(目標設定含む)運用のレベルアップに向けた実践的な人事評価関連研修のポイントをご紹介しています。
最終回である第6回目のテーマは「被評価者のセルフマネジメント」です。
被評価者のセルフマネジメントとは、「被評価者が自身で人事評価を活用し、目標達成及び自己成長のために、自信を管理すること」と定義しています。なぜ、被評価者のセルフマネジメントが必要なのか、そのポイントは何か、について、本コラムでご紹介させていただきます。
1.被評価者のセルフマネジメントとは
人事評価制度運用のレベルアップのためには、評価者をトレーニングすればいいのではないか、と思われる方もおられるかもしれません。しかし、実際に評価者に対して評価者研修を繰り返し行なっていても、「人事評価制度の運用のレベルアップが一定程度から高まらない」「人事評価制度の納得感が高まらない」と感じられることもあるのではないでしょうか。
こうした時に着目すべきは、被評価者への働きかけを行なっており、「セルフマネジメント」が行なえる状態になっているかとの視点です。
これは、近年の人事評価制度が、評価者だけでなく、被評価者に対しても自己評価や面談等の手続きに加わりながら運用する仕組みとなっているためです。つまり、評価者だけでなく、被評価者も、積極的に運用に加わることがなければ、人事評価制度の運用のレベルアップは図れないのが実情なのです。
では、被評価者のセルフマネジメントとは、具体的にどのようなことを行なうのでしょうか。
2.被評価者のセルフマネジメントのポイント
被評価者のセルフマネジメントでは、被評価者が自らPDCAを回すことが求められます。PDCAを回す上でのポイントは以下2点です。
1つめは、被評価者自身で取り組むことを考え、実行させることです。
与えられた役割・業務をこなすだけでは受け身になってしまいます。そこで会社や職場、自分の成長のために自分が取り組むべきことや取り組みたいこと、その進め方を自分で考えさせることが必要です。ただいきなり「会社のために」と言われてもイメージがしにくい被評価者もいるでしょう。そのような場合は、評価者が被評価者へ会社の実態や方針・計画を理解させ、被評価者一人ひとりの仕事とのつながりを考えさせる取組みが必要です。また会社・評価者から指示された取り組み事項であっても、被評価者に自分にとっての価値(自己成長、希望する仕事やキャリア・働き方との関連など)を考えさせると、推進の動機付けにつながります。
このように被評価者自身で考える機会をつくるために以下のような働きかけがあります。
◇評価者が一方的な指示でなく、部下に考えさせる接し方を徹底させる。
・人事評価面談において、被評価者が何をしたいのか、どう進めればいいかを引き出す。
・日常の進捗管理や指導において、被評価者の現状認識や考えを確認してから評価者の考えを話す。など
◇人事評価の手続きの中で、まずは被評価者に取り組み事項を考えさせる。
・目標設定で組織目標に基づく取り組むべきことだけでなく自分で取り組みたいことを記入させる。
・取り組み事項の背景や自分にとっての価値を記入させる。 など
2つめは、被評価者自身による定期的な振り返りです。
人事評価の時期に「人事から指示が来たから」と振り返りを実施するだけでは、
セルフマネジメントできている状態とは言えません。
そのため、定期的に仕事の進捗および自身の成長度を振り返り、今後の打ち手を考えさせることが必要です。
そのためには以下のような働きかけがあります。
◇評価者は、被評価者にあわせてコミュニケーションを工夫する。
・評価者は被評価者の取り組み事項や成長度にあわせ、コミュニケーションの内容や頻度を工夫すると、
被評価者が自身を振り返るきっかけとなります。
たとえば被評価者が初めて行う取り組みについては進捗や悩みを高頻度で確認し、打ち手を考えさせる。
一方で被評価者にとって慣れている取り組みであれば、改善や自身のスキルアップにつなげる方法を
考えるよう投げかけるなどが挙げられます。
◇進捗管理シートの活用
・月別などで進捗状況と今後の打ち手を記入するシートです。
被評価者の振り返りに対する上司からのコメント欄を設けることもあります。
・研修等で使用方法やメリットを伝えて配布し、活用を促すと定着しやすい傾向にあります。
3.被評価者のセルフマネジメントを行なってもらうためのアプローチ
では、どのようにすれば、被評価者のセルフマネジメントが行なえるようになるのでしょうか。これには、2点のポイントがあります。
第1に、被評価者が自社の人事評価制度の考え方や内容を理解していることです(もちろん人事評価制度以外の人事制度についても理解していることが望ましい)。
そもそも、人事評価制度の考え方や内容を理解していなければ、被評価者はセルフマネジメントを行なうことができません。
被評価者が自社の人事評価制度の考え方や内容を理解するためのアプローチとして考えられるものは、
①人事部門から被評価者に向けた人事評価制度の説明機会を設ける
②評価者から被評価者に人事評価制度の説明をしてもらえるようにする
の2つです。
①のように人事部門から被評価者に向けた人事評価制度の説明機会を設けることは、説明の内容を網羅的に、不明点を詳細に伝えられる意味で有効な手段です。しかし、人事評価の理解は日常の運用中の疑問等から深まることが多く、①のアプローチのみでは不足する可能性があります。そのため、②のように、評価者が被評価者に説明できるようにしておくことは非常に重要な要素であると考えられます。つまり、評価者研修において、被評価者にどのように説明を行なうか、疑問点をどのように解消するかをレクチャーするプログラムを盛り込むことが有効です。
第2に、評価者が被評価者のセルフマネジメントへの働きかけを行なうための機運を醸成することです。評価者・被評価者共に人事評価制度の考え方や内容を理解しても、それを活用する意欲がないとなかなか上手く進まないと考えられます。これには、被評価者への直截的なアプローチも有効ですが、評価者が自部署のマネジメントをよりよくするために人事評価制度を活用するように動機づけ、さらに被評価者に対してもセルフマネジメントを行なえるように、働きかけを行なってもらうことが必要です。もちろん簡単にはいきませんが、例えば評価者研修で、「被評価者がセルフマネジメントを行なってもらうことでよりよくなること」や、「セルフマネジメントを行なってもらうための懸念点」等を検討し、評価者の人事評価制度の運用力を高めると共に、被評価者のセルフマネジメントへの働きかけを行なうための機運を高められると、よりよい制度運用が実現できるものと考えます。
>> コラム前号 「第5回:面談・フィードバック」はこちらから
コンサルタントプロフィール
チーフ・コンサルタント 奥野 陽(おくの よう)
人材マネジメント領域の専門家として、多数の人事制度改革や人材育成支援のプロジェクトに参画。
最近では、人事制度の定着を促しながら、人事制度自体のブラッシュアップを仕掛け、継続的計画的に人材を成長させ、企業の発展に寄与する運用方法を研究している。
コンサルタント 市山 しほり(いちやま しほり)
人事制度の基本構想立案、人事制度改革(等級、給与・賞与、人事評価等)と制度の導入・定着化の支援(評価者研修・被評価者研修など)に従事している。
また組織文化(風土)の見える化やマネジャーの意識・行動変革を通じた組織文化改革を支援している。