コラムCOLUMN
「実践的人事評価関連研修のポイント」
第2回:目標設定
チーフ・コンサルタント 伊藤 冬樹
■はじめに
本コラム第2回からは、人事評価制度運用の場面ごとの実践的研修について紹介していきます。今回のテーマは「目標設定」です。
「目標設定」は皆さんご存知のように目標管理制度の最初のステップですが、その目標管理制度は日本企業の8割ほどが導入していると複数の調査結果が表しています。このように非常にポピュラーになった目標管理制度ですが、その運用状況をみると多くの企業で形骸化してしまっているという声が聞かれます。
JMACでは目標管理制度の狙い通りの運用をめざして、実践型の目標設定研修を進めています。
人材育成の要素は一般的に図表に示す3要素があると言われていますが、本研修においてもこの3要素を意識したバリエーションを展開しています。ここではその内容の一部を紹介します。
1.目標管理制度の現状
そもそも目標管理制度は、マネジメントの父ともいわれているドラッカーが「現代の経営」の中で“Management by Object & Self-control”と提唱したものが始まりと言われています。
つまり、もともとは職場と業務管理の仕組みとして提唱されたものなのですが、日本企業では人事制度がいわゆる“成果型”にシフトした‘90年代から、評価の意味合いが強調された仕組みとしての導入が相次ぎました。
その結果、現場では目標管理制度=評価制度という図式が定着してしまい、そのため制度を裏読みし、例えば高評価が得られるように低水準の目標設定を行う、目標未達でも何らかの理由をつけて高評価するといった運用が行われ、事務局側が意図する目標管理制度の趣旨とは異なった運用に陥ってしまっている企業が多く発生しています。
①目標管理制度の導入の意味を知り、咀嚼する -意識開発新制度の導入(制度改革)には、必ず目的・狙いがあり、コンセプトがあります。ここが現場のメンバーに伝わり理解、納得されないと、いくら仕組みを変えても意図通りの運用はされず、制度改革の成果は得られません。
新制度は一般に社員向け説明会の場で伝えられますが、参加者の理解は評価項目や評価シートなど、自分たちの行動に直接関係する変更点が中心になりがちです。
結果として制度運用の場では、その目的・狙いに考えが及ぶこともなく、だた粛々とやるだけの受け身的な対応に留まってしまいがちです。
JMACではこの点を問題視し、参加者に目的・狙いを咀嚼し、自分事で捉えることを促す場を設定しています。この場は参加者の主体的な検討を促すため、ワークショップ形式で開催します。
人事制度は基本的には全社共通であり、新制度で謳われる目的・狙いは全社を主語とした表現になります。しかし、これでは現場から見ると自社のことではあってもどうしても制度を三人称で捉えてしまいます。
そこでワークショップでは自職場の現在の状況、自職場で発生している問題に目を向けて、そこから新制度の狙い・目的の“自職場バージョン”を設定してもらいます。一連の検討はしっかり時間をかけて行い、さらに参加者間でのディスカッションを行い、相互刺激も得ながら検討を深めていきます。
目標管理制度で設定する目標としては、業績目標、人材育成(成長)目標、業務改善目標、活性化目標等があり、会社ごとの制度の目的・狙いに応じて設定する目標の種類が決まります。これら目標設定の視点は、目標の種類によってそれぞれ異なります。
例えば、業績管理の仕組みの場合は、①方針展開による目標設定が行われ、上位目標から論理的に導かれていること、②設定される目標はKPI(Key Performance Indicator)と称している会社もあるように「事業戦略もしくは展開方針等を反映した目標となっていること」がポイントとなります。この目標の妥当性確認は事業戦略に対する見識が必要な領域ですが、JMACのコンサルティング領域は経営の全領域に渡っており、必要に応じ戦略部門のコンサルタントも編成して研修に臨んでいます。
また、人材育成を狙いとして設定する育成(成長)目標は、如何に実現性の高いテーマを設定するかがポイントとなります。設定時は一生懸命考えて目標を設定しても、現場に戻ると業務遂行が第一義となってしまい育成目標にはなかなか取り組めなくなってしまうからです。担当している業務から離れた領域の目標では、特にこの傾向が顕著となります。そうさせないためには、設定目標はその時点で担当している業務に関連して推進する内容とし、日常業務遂行の中で育成目標に触れる機会を作り出すことがポイントとなります。
JMACではそれぞれの目標に対して目標設定の視点、ポイントを明確化しており、各社の会社制度に合わせてカリキュラムをカスタマイズしています。
目標設定研修では、目標の表現方法についても触れています。目標の適切な表現を行うことにはⅰ)目標の狙いに合った成果が得られる、ⅱ)適切な評価が行うことができるようになる、という効果があり、制度運用を意識したときの重要なポイントになります。
目標の表現方法には共通の原則があり、これを我々は目標設定の“4要素”と称しています。つまり、「何を(目標)、どれだけ(達成状態)、いつまでに(期限)、どのように(実行計画)」の4要素であり、これらの4要素を具体的に表現して、その整合性を確認することで目標達成の確率を高めているのです。
ポイントとなるのは「何を」と「どれだけ」との整合性、「どれだけ」と「どのように」の整合性です。前者は目標に見合った適切な達成状態が定義されていないと、水準は達成しても目標は未達成という矛盾が発生してしまいます。また後者はいくら高水準の達成水準を立てても、それに見合った労力が投入されないと絵に描いた餅になってしまうからです。
研修では参加者が実際の目標を設定し、これらの内容の妥当性、バランスの妥当性を検証しています。
目標設定の場を、そのまま研修形式にカスタマイズして実践している研修もあります。
現場には「研修は研修、仕事は仕事」と切り離して捉える人が多く、研修で学んだ内容が現場での実践に活かされない状況も多々聞かれますが、今回紹介する研修は、“研修=実践の場”と位置付けて開催し、研修内容を実際の目標設定に反映しやすくすることを狙いとしています。
実践の場では職場(課)単位を1グループとし、基本的に職場の全員が参加し、職場ぐるみでの目標設定を行います。マネジャー(課長)が課の年度目標、方針、その背景となる環境認識、を説明し、説明を受けたメンバーがその場で自分の目標を設定し、全員でその内容のすり合わせを行うのです。数グループが同一の場に集まり互いに牽制しながら検討を進めます。時間がとれる時には、設定した目標をグループ(課)間で共有化し相互刺激につなげる機会にもなります。
研修内では、講師は支援役に廻り、各職場における目標展開状況、ディスカッションの様子を見ながら、必要に応じ指導・助言したり、個別の悩みや質問にきめ細かく応じています。
2.カスタマイズ化した研修の開催
以上、弊社が実施する目標設定研修の概要を紹介してきました。
貴社において実施する際は、貴社の人事制度を理解し、また制度運用状況を押さえたうえで最適のカリキュラムを、専門コンサルタントが設計します。また、対象も管理職向け、担当層向け、職場単位での開催等バリエーションも豊かに揃えています。実施回数も1回実施して終わりでなく、制度が定着化するまで訴求点を変えながら、何度も繰り返し実施しています。
弊社の提供する目標設定研修が、皆様の会社の評価制度運用の一助となれば幸いです。
>> コラム 前号「人事評価制度運用についての課題認識」はこちらから
>> コラム次号「人事評価(業績・成果評価編)」はこちらから
コンサルタントプロフィール
HRM革新センター
チーフ・コンサルタント 伊藤 冬樹(いとう ふゆき)
1985年 JMAC入社
新事業開発を振出しに、事業戦略立案、マーケティング領域の支援経験を経て、現在は人材マネジメント領域のコンサルティング・教育を行っている。
人事制度、人材育成体系、組織活性化などの仕組み構築のほかに、第一線組織における「泥臭い」組織マネジメントのあり方を深く研究・考察を継続している。
そこから得た知見をもとに、現場における目標設定、コミュニケーション、業務改革、OJT、評価などの組織マネジメント運営支援など幅広く行っている。
人材マネジメントの立場から、企業・組織の業績貢献、改革推進支援でも活躍中