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「自社らしさを活かしてCS・EXをつくる」
第3回:従業員体験(EX)でつくる働きがいのある組織
コンサルタント 佐藤 秀祐

■「働き方改革」の限界

 厚生労働省が「働き方改革」を提唱して数年が経ちました。厚生労働省のリーフレットを見ると、「働く方々がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する」という目的が書かれており、時間外労働の上限規制や有給休暇の取得推進など、様々な企業の取り組みが支援されています。そんな中、新型コロナウイルスという変化の波が訪れ、皮肉にも強制的に、「働き方改革」が実現できたという企業も多いのではないでしょうか?

 しかしながら、緊急事態宣言が解除され、ある程度従来のスタイルに戻ることで、逆に不満や不安を覚えている従業員の方、あるべきワークスタイルに迷う経営者の方も多いのではと推察します。

 「働き方改革」を否定するわけではありません。あまりに残業が多かったり、不公平な評価制度が横行していたりする実態は、強制力を持って矯正せねばなりません。しかし、それだけでは形骸的になり、制度や量的側面の改革にとどまり、実際に働いている従業員の仕事に対するマインドなどの質的側面の改革までは届かないことが多いというのが、「働き方改革」の実情であり、限界です。

 では、この限界を突破するためには、なにに注目すべきなのでしょうか?

■「働き方」から「働きがい」へ

 結論は、「働きがい」です。

 先ほど「量的」「質的」と表現しましたが、例えば、残業はほとんど無いけれど興味も無い仕事をしているAさんと、毎日2時間の残業は発生するものの、自分が入社以来やりたかった仕事をしているBさんでは、どちらのほうが企業へのエンゲージメントが高いでしょうか?我々の調べではBさんだと言えます。

 単なる残業削減、と思考停止することなく、実証的に従業員一人ひとりの「働きがい」を高めていくことが、エンゲージメント向上、ひいては企業の競争力を高めることにつながるのです。

■「働きがい」向上のための重要なポイント

 ただし、「働きがい」と一口に言っても、従業員によって「働きがい」を感じるポイントは異なります。顧客貢献に「働きがい」を感じる人もいれば、スキルアップに「働きがい」を感じる人もいます。「働きがい」は客観的事実を掴むことが難しく、論理だけでは答えにたどり着けません。

 JMACでは「働きがいワークショップ」をおこなうことが多々あります。従業員の方に参加していただき、「働きがい」を高めるための課題抽出・施策検討をするのですが、参加者から、「いくら検討会をやっても制度が変わらないと何も変わらないよ」「10年前にも同じようなことやったよね・・・」といったネガティブな声が聞こえてくることがあります。

 「働きがい」は、その職場に属する従業員一人ひとりが作るものであり、かつ、経営と従業員で共創するものです。
  以上を踏まえると、「働きがい」向上の取り組みのポイントは3つです。


①取り組みを続けること
 ワークショップをやったから「働きがい」が高まる、ということではなく、そういった場作りを含む取り組みを続けることが重要です。経営が方向性を示しつつ、取り組んでいることをきちんと周知していく継続力が、第一のカギなのです。


②役割分担と役割発揮を徹底すること
 取り組みの推進は人事部などの管理部門が主管となりつつも、各職場で考える・取り組むというパターンが理想です。この各職場の取り組みを放置せず、マネジメントすることが第二のカギです。各職場に課題やテーマ別の責任者を設け、進捗や結果を管理する基盤を整備し、成果に対する評価までおこなうことで、職場の当事者意識を芽生えさせ、自責で取り組みを進めてもらうことが重要です。


③経営の意思決定のスピードを早めること
 先述の通り、「働きがい」は、客観的事実が掴みにくく、論理だけでは答えにたどり着けないものです。したがって、変えるべきは変えていかねばなりません。そのためには、トップの意思決定は大胆で、スピーディでなければなりません。また、自分たちの意見がすぐさま経営に反映されることで、職場が取り組みに対する手応えを感じられるようにもなります。変えるべきはトップの判断で一気に変える。これが第三のカギです。

■EX(=Employee eXperience/従業員体験)とは

 さて、ここまで「働きがい」について語ってまいりましたが、その「働きがい」は、仕事をする中での従業員一人ひとりの体験によって形成されます。例えば、上司に叱られた経験は皆さんお持ちと思いますが、叱られた内容に納得感があり、成長につながったと感じられれば、叱られたとはいえ、「良い体験」として記憶に残ることでしょう。しかし、理不尽な八つ当たりだったり、「自分は悪くないのに・・・」と思っていたりすると、これは「悪い体験」として残ります。同じ「上司に叱られた」という事象でも、人によって体験としての良し悪しは異なります。ここで重要なのが、叱った上司側の思いがどうであれ、体験の良し悪しは叱られた側が決めるものだということです。したがって、「俺の背中を見てついてこい」「なぜ叱られたのか自分で考えろ」という職人気質では、たとえ部下のことを思って叱っていたのだとしても、必ずしも部下に良いものとして伝わるわけではないのです。この、日々の仕事の中での従業員一人ひとりの体験ひとつひとつを、我々は「EX=Employee eXperience/従業員体験」と呼んでいます。一律の枠組みやエンゲージメントの強制は、従業員にとって必ずしも良いものではないということは、肝に銘じる必要があります。

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 そしてEXは、時間軸を持つ概念です。先ほどの「上司に叱られた」という体験を例にとって考えます。
 皆さん、叱られてから数年経ち、「あの時は理不尽だと思ったけれど、今になってみればとても大事なことだった」と気づいた経験はないでしょうか?自分が昔の上司と同じ立場になった今、部下に全く同じことで叱ってはいないでしょうか?これが、EXの持つ時間軸です。立場や環境が変わったとき、「悪いEX」だと思っていたものが「良いEX」に変わっているのです。それならば、最初からその大事なことを「悪いEX」として伝える必要性はどこにあるのでしょうか?その従業員にとっての「良いEX」を作り出すためには、叱り方を変えたり、叱っている意味をきちんと伝えたりすることが重要です。このように、日々の業務一つひとつにも、「働きがい」の源泉は宿っているのです。

 自社の成長・競争力向上のために、従業員にどのようなEXを感じて働いてほしいのか、そして従業員はどのようなEXを感じて働きたいのか、部署・企業として明確にし、それを達成するには、日々の業務や制度をどう変えると良いのかというプロセスで、「働きがい」向上を考えるのです。

■ちなみに・・・「パーパス経営」によるEXの表出と働きがい


 近年、「パーパス経営」という葉も一般化してきました。
パーパスとは、存在意義であり、「数十年後に自社が実現すべき大きな変革」です。

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 世の中に自社が存在する意義とはなにか、自社が世の中のためにできることはなにか、ということから、理念やミッションなどに落とし込み、現場にも浸透させることがパーパス経営の基本です。自社のパーパスに共感・納得している従業員ならば、パーパスを実践するEXそのものが「働きがい」に直結します。「パーパス経営」の実現は、企業の競争力向上につながるということは、ここまでこの寄稿を読んでくださった皆さんであれば、ご理解いただけるはずです。

 ここまで「働きがい」「EX」「パーパス」など、様々な概念をお伝えしてまいりましたが、 JMACのウェブサイトには、「働きがい」向上の実践事例 なども掲載しております。また、2021年10月には、パーパスによる「働きがい」づくりに関するWEBセミナーを主催するなど、「働きがい」を基点としたコンサルテーション・研修・ワークショップなどを行っております。皆さんのお会社の従業員の皆様の顔を思い浮かべると同時に、少しでもJMACのことを思い出していただけると幸いです。

>> 「第2回:オンライン営業への変化」はこちら

>> 「第4回:顧客接点において人がやるべきは状況判断による個別応対」はこちら

コンサルタントプロフィール

経営コンサルティング事業本部 CX・EXデザインセンター
コンサルタント
佐藤 秀祐 (さとう しゅうすけ)   

佐藤さん

サービス業を中心としたES・働きがいを起点とした組織能力向上をテーマに据え、 ES・働きがい調査に加え、働きがいのある組織運営、組織能力開発などのコンサルティングの経験を有する。
その他にも全社的な業務改革、営業機能強化の支援も行う。

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