歴史が紡いだ「宝イズム」を継承し、
飽くなきチャレンジで社会に貢献する(後編)
宝ホールディングス株式会社様

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歴史が紡いだ「宝イズム」を継承し、
飽くなきチャレンジで社会に貢献する

~人財こそ企業の要。次世代育成で、企業風土の醸成を図る~

 宝グループは、1842年創業の酒造業からスタートされ、国内事業として、酒類・調味料・酒精事業、海外事業として、酒類・日本食材卸事業、バイオ事業として、試薬・機器、受託、遺伝子医療といった多岐に渡る分野に事業領域を拡大され、現在に至るグローバル企業です。地域的にも、日本のみならず、欧米、アジア各国での事業活動を展開され、約50%の従業員が海外で勤務されており、グループの人材も多様化しています。
 1925年の宝酒造(現:宝ホールディングス)設立から、来年で100周年の節目を迎えられます。今回は、この長い歴史の中で経営環境を見極め、時代のニーズを捉えながら様々な事業にチャレンジされてきた「宝イズム」の継承と、それを支える人材育成について、宝ホールディングス 髙橋常務にお話を伺います。

(計2回に分けてご紹介します。今回は前編に引き続き、後編をお届けします)

■会社概要:宝ホールディングス株式会社(TAKARA HOLDINGS INC.)
 本社:京都市下京区四条通烏丸東入長刀鉾町20番地
 創業:1842年
 設立:1925年9月6日
 売上高:3,393億円(2024年3月末)
 約5,492名(グループ会社数 計64社 2024年3月末)

●インタビュー:
宝ホールディングス株式会社 常務取締役 髙橋 秀夫 氏

●インタビュアー:
株式会社日本能率協会コンサルティング

経営コンサルティング事業本部 シニア・コンサルタント 佐伯 学
 

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■ 宝ホールディングス株式会社 常務取締役 髙橋 秀夫 氏 プロフィール

1985年4月 入社
2012年4月 人事部長
2016年6月 執行役員人事部長
2018年6月 取締役
2022年6月 常務取締役(現)
JMAC佐伯さん

佐伯 学 プロフィール :JMAC シニア・コンサルタント

経営コンサルタントをなりわいとして33年目。
これまでのプロジェクト経験を集大成して、創造的な組織開発や多様性の時代に合わせた組織変革を目的に、近年は経営幹部やマネジャー、次世代リーダークラスの育成に力を注ぐ。
コンサルティングプロジェクトや選抜実践研修、階層別研修、選択型研修を通じて、思いのあついクライアントの皆さんと、日々ともに考え、実践している。

●たゆまぬチャレンジにはどのように「宝イズム」が発揮されているのでしょうか

JMAC:
 私が当初貴社に来させていただいた頃、宝グループでまずイメージしたのは、消費者に昔からおなじみ商品の「タカラ本みりん」それに「松竹梅」「タカラcanチューハイ」でした。ご支援をさせていただく中で初めて知ったのが、みりんなどを扱う調味料事業における、中食・外食メニュー提案の拡大です。それに今は和酒でいいますと、先ほど常務のお話にあったように、グローバルに向けて「澪」というスパークリング日本酒の分野を開拓されていますね。
 それから、これも素晴らしいと思ったのが、全国の自治体と連携して、地域の特産品を生かしたタカラクラフトチューハイ「寶CRAFT」です。これも販売地域がそのエリアに限られているので、なかなかお目にかかる機会がないんですが、自治体の人にとってはすごく良い商品群になっていると感じます。こうしたたゆまぬチャレンジは、どういう強みを発揮して実現されているのでしょうか。
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髙橋:
 これは先ほどお話したとおり「技術・品質主義」、そこに通ずると思います。やはりそれがベースにないと、新しいものを作ったとしても他社に容易に真似をされてしまいますから。

JMAC:
 いろいろな提案が各現場から上がってくると思いますが、役員の方ももちろん現場の皆さんも、「技術・品質主義」から言って、これは他社に真似できないということをスクリーニングして取り組まれているという感じでしょうか。

髙橋:
 当然新商品を出すときにそういう視点を持っています。

JMAC:
 かなりこだわってらっしゃいますね。新商品が出てくるまで時間はかかると思うのですが、他社では思いもつかないような商品だったり、あるいは技術的に優れて真似ができない、追いつけないものだったりというのが、皆さん方のチャレンジの本質ですね。

髙橋:
 新商品を出す時だけじゃなく、新規事業をスタートさせるときも、そういった視点が大事だと思うんです。
 
JMAC:
 おっしゃるとおりですね。

髙橋:
 やはりそれには過去の失敗を踏まえた反省があるんです。

髙橋:
 そこがすごい。この歴史記念館にも「過去にこんな失敗をした」ということがちゃんと掲示されていて驚かされました。

JMAC:
 やはり当社は、ビール事業と飲料事業の二つの大きな失敗がありましたので。その失敗の要因に共通している部分もあるんです。どちらの事業も競合が巨大企業であったことと、やはり先ほどお話しした技術・品質の点で、当社として独自性の高いものが出せていなかったということです。

髙橋:
 なるほど。そういう教訓は確かに後になって気づくわけですね。

髙橋:
 そうです。例えば強い競合がいたとしても、競争軸をずらして戦える土俵があればまだ違うんですが、残念ながらそれがなかったんです。

JMAC:
 例えば「澪」は一見簡単にできそうに見えるかもしれませんが、技術的にはすごく大変で、現在スパークリング日本酒カテゴリーでシェアの約8割を占めるすごい商品ですね。

髙橋:
 はい。スパークリング清酒はいろんな会社が出していますが、「澪」と似たような商品というのは実はないんです。

JMAC:
 確かにないと思います。それに、海外にも通じる点が素晴らしいですね。

髙橋:
 「澪」の海外への輸出はもう何年も前からやっているんですが、正直、本格的に取り組めていなかった。この中期経営計画の中でやはり具体的な目標値を設定し、海外のグループ会社を巻き込んで注力しているところです。

JMAC:
 なるほど。近年、和食・和酒が世界でもずいぶん取り上げられ、多くの外国人の方も訪日されています。私も空港で「澪」の大きな垂れ幕のPRを目にして、ずいぶん露出されているなと感じました。

髙橋:
 和食の方が先に受け入れられて、それに遅れていわゆる和酒といいますか、清酒をはじめとした日本の酒が入り込んでいく・・・そういうビジネスモデルを考えているんです。海外の食材卸の販売網を活用することで、シナジー効果もあると思います。

JMAC:
 いや、とても素晴らしいアプローチだと思います。そういった取り組みは、なかなか他社が真似できない貴社の強みですね。

●宝グループとして伝統技術の継承や、新規分野の探索等に取り組まれていますが、
どういうご苦労がありますか

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JMAC:
 勉強会を通し、将来構想をする過程において、宝グループには京都企業の伝統もありながら、同時にとても開かれた組織風土を感じています。また中途入社の社員が生き生きと能力を発揮されていたり、他部門の方がとても熱心に情報提供してくださったり、組織や人材の多様性も感じます。さらには海外日本食材卸事業やバイオ事業といった新しい分野は自前にこだわることなく、他社に学び、M&Aを通じて育てる企業文化にも驚かされました。宝グループとして、伝統技術の継承、それに新規分野の探索といったことを実現するうえで、どのようなご苦労がありましたか。

髙橋:
 そうですね。例えば伝統技術の継承という点では、兵庫県の灘に「白壁蔵」という蔵がありまして、元々は灘工場と呼ばれていたんですけれど、平成13年にそこに蔵を作りまして、その時に工場の名称も灘工場から「白壁蔵」と変更しました。それまでは、兵庫県但馬の方から、杜氏さんと蔵人さんが10月ぐらいに来られて、翌年3月くらいまでそこで手作業の清酒造りをやっておられたんです。しかし、その杜氏さんたちも後継者がなかなかいないということで、手作業の技術を、当社の社員に伝承していこうということになりました。そこで杜氏さんたちと一緒になって、当時の灘工場の清酒製造担当の社員が蔵に入って教えを請いつつ、機械化できるものは機械化しようということで、伝統の酒造りを機械化するといった取り組みも同時にやりました。

JMAC:
 それは杜氏さんの協力も必要ですし、熱意という数字では表せないものを機械にどうやって移行していくのか、その過程はすごく難しかったでしょうね。品質を守りつつ、伝承もしないといけない。そこに「白壁蔵」はチャレンジされて、成功された事例ですね。

髙橋:
 はい。それと今、海外でもアメリカと中国で清酒の生産をやっておりまして。どちらも「松竹梅」というブランド名で販売しているので、日本の「松竹梅」と品質が違ってはいけないということで、アメリカ、中国それぞれで生産したお酒を定期的に日本に運んで日本の技術者が品質チェックをしているんです。

JMAC:
 それもまた大変なご苦労ですね。水も原料となる米も当然違うんですから。

髙橋:
 おっしゃるとおり、アメリカはカリフォルニア産の米で製造しているので、当然原料や水の違いがあるんです。

JMAC:
 地道な努力ですね。「ブランド力を守ること」と、「現場を現地化すること」を両立されているわけですね。

髙橋:
 日本からも「松竹梅」を輸出していますから、海外で作っているものと日本で作っているもので品質の差があってはいけないですからね。

JMAC:
 それはすごい取り組みですね。もちろん大事なことですが、言うのは簡単ですけれど、現場は相当大変なご苦労かと思います。

髙橋:
 それと、2023年1月に資本提携したイノベーティブな清酒をつくる株式会社WAKAZEとの取り組みとして、缶入りのスパークリングSAKEを米国宝酒造が受託生産して2024年4月からWAKAZE社が発売しています。

JMAC:
 缶入りの清酒ですか。それは日本にはない新しい商品ですね。アメリカの消費者向けなんですか、それともヨーロッパの消費者向けなんでしょうか。

髙橋:
 アメリカの消費者向けです。

JMAC:
 それはまた新たなチャレンジですね。

髙橋:
 いずれはそういった商品が逆に日本に入ってくるかもしれません。

JMAC:
 それは楽しみですね。伝統技術の継承、新規分野の探索といったことに常に取り組まれていることがよくわかる事例でした。ありがとうございます。

●宝グループでは、「人的資本の充実」に対して、どのような方針を掲げて対応されてきていますか。特に、人材や組織の成長支援に関して力を入れている施策がありましたら教えてください


JMAC:
  日本の企業は今、人材不足に直面しており、人的資本の充実が急務です。宝グループにおかれましても、今後の事業領域の拡大、マーケットの広がりから、人的資本の充実に対して様々な課題をお持ちではないでしょうか。今現在、どのような方針で対応されているか、特に人材や組織の成長支援に関して力を入れている施策などございましたらお聞かせください。

髙橋:
 基本的に今のいわゆる人材育成と言いますか、人的資本への投資ということで考えると、先ほどの「将来ビジョンの勉強会」とも少し重なるんですが、やはりこれからは「選抜型の教育」と、全社員を対象とした「底上げ型の教育」と、その二つの組み合わせをうまくやっていく必要があると思っています。

JMAC:
 なるほど。底上げと言っても、様々な社員の方がいらっしゃるグループなので、何か重点化する分野はあるのでしょうか。

髙橋:
 今取り組んでいるのは、各部署で必要とされるスキルや資格を洗い出して見える化し、それを全社にオープンにしようとしている点です。それを社員に見てもらい、自分が将来ここの部署に行って仕事をしたいという人については、「こういうスキルが必要」ということを理解してもらって、それに向けて勉強するための様々な教育メニューを社員が選択して勉強できるようにすべきと考えています。

JMAC:
 それは素晴らしいですね。会社から「これを受けなさい」ではなく、「こういう仕事をしたいならこのスキルが必要」ということをまずオープンにしようと。その上で、自分がこれをやってみたいとか、こういう仕事に就きたいと思ったら、自らそのスキルを磨いてもらえるよう、教育メニューに反映していくという考え方ですね。

髙橋:
 そのようなことに取り組んだ背景の一つとして、2023年3月にエンゲージメント調査を実施したんですが、その結果洗い出された課題の一つとして、社員のキャリア形成に対する支援が少ないのではないかという意見が出てきました。

JMAC:
 具体的にはどういう意見でしょうか。

髙橋:
 社員にもいろんな考え方の人がいるため、会社が自分をどういうふうに育成しようとしているのかを知りたいといった意見もありました。その一方で、自分はこういう風な道を歩みたいので、それに対してキャリア形成の支援をしてほしいといった意見もありました。特に、後者の方のように、キャリア形成支援をイメージして、スキルの洗い出しだったり、そのスキルを身につけるための教育面の提供だったり、そういったことを会社として重点的にやっていこうと考えたのです。

JMAC:
 なるほど、そういうことですか。

髙橋:
 あくまでも自分が将来どうありたいかというのは自分でまず考えていただきたいですから。

JMAC:
 そういう思考が若い方に多くなってきているというふうに世の中では言われていますが、宝グループですと「自らキャリア形成をしていきたい」といった意見はどの層に多いでしょうか。

髙橋:
 そうですね。調査の結果では、30歳前後の層が多いですね。結局、何十年か後にはこの年代が当グループを背負って立つような立場になってもらわないといけないわけですし。

JMAC:
 おっしゃる通りですね。スキルの見える化をし、それに合わせて皆さんにキャリアアップしてもらえる制度を整えていかれることは、結果的に次世代を担う社員の育成にも繋がりますね。

●われわれ日本能率協会グループの特徴や強み、さらには今後の課題や期待などを率直にお聞かせください


JMAC:
  私自身、「将来ビジョンを考える勉強会」を通し、毎年、次世代を担う参加者の皆様方から様々な角度で、次の100年ビジョンに関する課題や提言が具体化されていくのを楽しみにしています。髙橋常務からご覧になって、我々日本能率協会グループの特徴や強み、さらに今後の課題や期待などございましたら、率直にお聞かせいただけますでしょうか。

髙橋:
 私は宝グループでしか仕事をしたことがありませんし、実際、他社の具体的な取り組みというのは、研究会とか情報誌等である程度は入ってくるのですが、実際中まで深く入り込んでいるわけではないですから、表面的な部分しかわかりません。やはりそういう意味でも、日本能率協会さんは他社さんの成功事例などを深くご存知でしょうから、当社で活用できる部分があれば、どんどん教えていただきたいですね。

JMAC:
  ありがとうございます。他社の成功事例など、取り入れられそうな点については情報提供させていただき、さらによりよいご支援ができますよう、これからも力強くサポートさせていただきたいと思います。

●最後に、貴社のアピールポイントについてお聞かせください


JMAC:
  当コーナーは様々な企業の方や、就職活動中の学生さんなど多くの方にご覧いただいています。最後に貴社のアピールポイントについてお聞かせいただけますか。

髙橋:
 宝グループは、和酒や日本食の市場を展開する宝酒造、宝酒造インターナショナルグループと、ライフサイエンス産業の分野で事業を展開するタカラバイオグループをはじめとする事業会社で構成されています。ビジョン『Smiles in Life~笑顔は人生の宝~』の実現に向け、世界中の暮らし、命、人生を、笑顔で満たすための多様な分野での挑戦を続けていますが、活躍の場は国内に限らず海外にも広がっています。その挑戦を支えるため、グループの次世代を担う人財や、グローバルな事業成長を実現する人財の育成にも力を入れています。私たちは、これからも国内のみならず世界に向けて挑戦し続ける人財と共に成長を目指していきたいと考えています。

JMAC:
  これからも我々消費者をあっと驚かす、貴社ならではのユニークな商品の開発を楽しみにしております。 本日はお忙しい中、貴重なお話をいただきありがとうございました。

>> 「前編」記事はこちら

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