徹底したエンジニアの新入社員教育で
「日産DNA」を次世代につなぐ(後編)
徹底したエンジニアの新入社員教育で
「日産DNA」を次世代につなぐ
~Z世代の特性を理解し、きめ細やかな研修とフォローアップで成長を促進する~
日産自動車株式会社 車両生産技術開発本部は、1,200人を超えるエンジニアが所属する大規模な開発部門です。同本部では、新入社員教育を約1年かけて非常に細やかに実施されており、その一環としてJMACのロジカルシンキング研修を3年間継続的に導入していただいています。本研修の意図や受講後の成果について、さらに、Z世代とも呼ばれる現在の新入社員の特性に合わせた人材育成方針やフォロー体制について、同本部の中嶋様、山崎様にお話を伺いました。
(計2回に分けてご紹介します。今回は前編に引き続き、後編をお届けします)
本社:〒220-8686 神奈川県横浜市西区高島一丁目1番1号
設立:1933(昭和8)年12月26日
資本金:6,058億13百万円
従業員数: 24,034名(単独)133,580名(連結) 2024年9月30日現在
インタビュー
日産自動車株式会社
車両生産技術開発本部 車両生産技術統括部
・主担)中嶋 聖也 氏
・シニアエンジニア)山崎 知広 氏
インタビュアー
株式会社日本能率協会コンサルティング
・取締役 生産コンサルティング本部長
シニア・コンサルタント 石田 秀夫
・R&Dコンサルティング事業本部
チーフ・コンサルタント 丹羽 哲夫
JMAC 丹羽:
先ほどからお話の中で「同期との絆」という言葉が何度か登場しました。同期という横のつながりを大切にするうえで、何か具体的なサポート体制や取り組みを行っていることがあれば、ぜひお聞かせください。
日産自動車 中嶋:
私たちの部署では、新入社員を受け入れた際に、グループワークを比較的多めに取り入れています。先ほどお話した受け入れから約2か月半が経過した研修の後半のアウトプット主体のフェーズでは、お互いの関係性や私たちとの信頼関係がある程度築けたタイミングで、外部での合宿を実施しています。
JMAC 丹羽:
外部の合宿ですか?それはどういった内容でしょうか。
日産自動車 中嶋:
チームビルディングのフィールドワークですが、野外でのアスレチックに似たような形式でやっています。
日産自動車 山崎:
昨年度から取り入れていますが、これをやる前と後で、明らかに同期の絆が強くなったという実感がございます。
JMAC 丹羽:
それは素晴らしいことですね。生産技術は、さまざまな部署と調整を行いながら進めていく必要があるため、同期がそれぞれの配属先に分かれる前に絆を深めておくことは非常に意義深いですね。
日産自動車 山崎:
同期との絆だけでなく、会社とのエンゲージメントもしっかりと感じてもらう工夫もしています。例えば、中嶋が主体となって行っているリクルート活動では、新卒が2年目や3年目になったところで積極的に会社の顔として登用して、学生に向けて会社生活や仕事の魅力をアピールしてもらっています。
JMAC 丹羽:
それは採用活動を手伝ってもらうということでしょうか。
日産自動車 山崎:
はい、そうです。また新入社員教育の時にも講師として参加してもらい、先輩社員としての自覚をもってもらっています。
また、新卒2年目は我々から様子を伺い、配属先で元気にやっているかを必ず確認しています。その際に得た情報をもとに、同期同士のつながりが途切れていないか、会社や職場、仕事に魅力ややりがいを感じ続けられているかをチェックしています。
JMAC 丹羽:
なるほど。とてもきめ細やかなフォローアップをされているんですね。
JMAC 丹羽:
これまで、新入社員の受け入れから配属までの流れをいろいろ要素として語っていただきましたが、改めて研修の成果、難しさ、手応えについてお聞かせいただけますでしょうか。
日産自動車 中嶋:
私は昨年度からこのチームに合流しましたが山崎はさらに2年経験が多いので、まず私からは短期的な側面についてお話しさせていただきます。私は昨年度、今年度と新入社員を2回受け入れたのですが、正直なところまだまだ手探りの部分があると感じています。例えば、研修中に受講者の集中力が欠けていたり、時にはウトウトしている人もいます。しかし、丹羽先生の講義を拝見していると、そのような受講者は見受けられないように思いました。
JMAC 丹羽:
皆さん集中して講義を受けておられましたね。
日産自動車 中嶋:
それを見て、私たちのコンテンツに興味を持ってもらえなかったのではないかと感じました。もちろん、集中してもらえるように内容には工夫をしているつもりですが。
JMAC 丹羽:
なるほど、それが現状の課題ということでしょうか。
日産自動車 中嶋:
はい、そこが現在の少し悩みの種です。学生気分が抜け切れていないというか、、、しかし一方で、以前は周りへの配慮に欠ける、少し悪く言うと自己中心的な発言が間々見受けられましたが、最近ではそのような振る舞いが減少しているように感じています。これも一つの手ごたえではないかと思います。それに加えて、先ほどお話しした同期との絆については、明らかにうまく築けるようになったと感じています。
JMAC 丹羽:
ありがとうございます。山崎さんはいかがですか?
日産自動車 山崎:
私からは、長期的な視点でお話しさせていただきます。先ほど中嶋が申し上げた通り、受け入れの2ヶ月半から3ヶ月弱の間、私たちも全力で教育に取り組んでいます。その期間だけでは、手応えを感じられないこともありますし、毎日が勝負のように感じて冷静に見られないこともあります。しかし、配属された後に振り返ると、彼らがとても成長しているのがよくわかります。
例えば、最初に受け入れ研修を行っていた時、「社内用語がわからないので、何を見て覚えればよいですか?」とか、「現場の社員とどうコミュニケーションを取ったらいいのでしょうか?」という質問があったりしました。そんな新入社員が、1年後には先輩社員として次の新入社員の前で堂々と振る舞い、驚くほど成長していることに気づきます。彼らは、社内用語を流暢に使いながら、今どんなプロジェクトを進めているのか、仕事の意義や一日の過ごし方についても立派に語ってくれます。1年後が、どの社員もそのようになっているのが実感できる瞬間です。このような手応えを感じる時に、改めてやってきて良かったと思います。
実際に、客観的なデータもあります。多くの企業が新卒採用の3年以内の離職率を指標にしていますが、私たちはずっと1桁台を維持しています。結果として、良い水準を保ちながら運営できていることが、この数字にも表れていると感じています。それも手ごたえの一つです。
■ロジカルシンキング研修について
JMAC 丹羽:
今回の研修に取り入れていただきました「ロジカルシンキング研修」について、いくつか質問させていただきたいと思います。この研修を採用された背景や、実際に受講された際の率直なご感想、さらに改善点などがありましたら、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。
日産自動車 山崎:
最近、物事をロジカルに考えたり、表現や説明をすることが苦手なエンジニアや社員が増えていると感じています。これはベテランや中堅層に限らず、管理職にも同様の傾向が見られます。そのため、新入社員のフレッシュな時期に、「鉄は熱いうちに打て」ではないですが、このスキルを身につけてもらおうと、新入社員研修に取り入れました。 ロジックツリーの考え方や表現方法、説明方法を習得することは、ビジネスマンとしてもエンジニアとしても非常に重要です。この研修では、2日間にわたり演習を交えながら非常に分かりやすく教えていただき、翌日からでも実践できる内容となっており、非常に高く評価しています。 特に良いと感じているのは、演習テーマが具体的でわかりやすい点です。例えば、「通勤ラッシュの苦しみを解決するロジックツリー」のように、身近で理解しやすい事例が取り上げられていて、新入社員にも馴染みやすい内容となっています。研修内容には非常に満足していて、現時点で改善をお願いしたい点は特にございません。
JMAC 丹羽:
ありがとうございます。そのようにおっしゃっていただけると、私たちも大変やりがいを感じます。より効果的な研修にするために、何か特別な工夫や仕掛けを考えられていることがあれば、ぜひお聞かせいただけますでしょうか?
日産自動車 山崎:
例えば、グループワークでのプレゼンテーションの場面では、中嶋や私から厳しく「ここは筋が通っていない」「ロジックがおかしい」といった指摘をするようにしています。そうすると、新入社員は「どうすればうまく伝わるだろう?」と考え、少し悔しい思いをすることになります。こうしたフラストレーションを感じさせながら研修を進めることが、非常に効果的だと感じています。
JMAC 丹羽:
なるほど。研修の中でも、ピラミッド型で下から説明するのではなく、しっかりと上から説明するべきだという話や、もし聞き手が「はぁ?」というような顔を見せた場合、それは前提がずれているサインだということを講義の中で伝えています。現在、当研修の成果として感じられる点は何かありますでしょうか?
日産自動車 山崎:
丹羽先生の研修を受けた翌日には、参加者が早速プレゼン資料にロジックツリーを取り入れ始めるんです。もちろん、内容はまだ不十分な所もありますが、すぐに実践しようという積極的な姿勢が見て取れます。このように行動が変わるのは、ロジカルシンキングの重要性を理解し、自分のスキルとして身につけたいという意欲があるからだと思います。毎年、研修を受けたばかりでその知識を積極的に活用しようとする姿を見ていると、とても面白いですね。
JMAC 丹羽:
それは講義をする立場からしても、ありがたいことです。
日産自動車 山崎:
繰り返しになりますが、丹羽先生の研修後も、実際に様々なプレゼンテーションやトークをさせる際には、論理がしっかりと通っていなければ指摘し、論理的に考える癖が自然とつくようにしています。先ほど少し触れましたが、1年後には新入社員の前で先輩社員として業務を紹介してもらう場面があります。その際、彼らは見違えるほど上手にプレゼンテーションを行います。やはり、丹羽先生に学んだことが大きな成果となって現れていると、改めて実感しています。
JMAC 丹羽:
ありがとうございます。さまざまな場面でお役立ていただけているとのことで、講義をする側としてもうれしい限りです。
■今後の本部の人財育成の施策、取り組みについて教えていただけますでしょうか
JMAC 丹羽:
新入社員として社会人生活をスタートさせた方々は、組織における個人の成長という点でも最も多感な時期を迎えています。こうした変化の多い年代の社員に対し、個人の成長や組織との関係を支援するための施策があれば、ぜひ教えていただければと思います。
日産自動車 山崎:
先ほどお話ししたように、キャリアと一言で言っても、その選択肢は非常に多様であることをしっかり理解してほしいと考えています。現在は、まさに「100人100様」のキャリアの時代です。さまざまな価値観や生き方、働き方を尊重することが求められています。終身雇用が当たり前だった時代は過去のものとなり、そうした前提を踏まえた上で、キャリアビジョンを描く意義や具体的な方法を教えています。
当社の新入社員に限らず、個人のキャリアを考える際には、プライベートも含めた「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(期待されること)」の三つをしっかり整理することを指導しています。個人には「Will」と「Can」を深く考えてもらい、会社や上司は「Must」を明確に提示する。この三つが交わる部分が、当面のキャリアビジョンであるという考え方を教えています。
さらに、そのビジョンを定期的に上司とすり合わせ、必要に応じて見直しながら進めていく。このようなプロセスの本部内への普及を図り、社員一人ひとりが自身のキャリアを主体的にデザインできるよう支援しています。
JMAC 丹羽:
なるほど、大変よく理解できました。それでは、人材育成や教育の観点から、今後の展望や将来的なビジョンについてお聞かせいただけますでしょうか。
日産自動車 中嶋:
では、私は本部の視点からお話ししたいと思います。私たちのグループが担当している「車両生産技術開発本部」には、1,200名を超えるエンジニアが在籍しています。現在の課題として感じているのは、本部内の各部署で実施している人材育成にばらつきがある点です。
理想としては、各部署がそれぞれの優れた取り組みを取り入れ、最終的にはこのチームがなくても、各部署が一貫性を持って人材育成を行えるようになることです。そしてそれを受け身ではなくて自ら進んで学ぶ、教える、そのような状態が当たり前となるレベルを目指していきたいと考えています。
JMAC 丹羽:
山崎さんはいかがでしょうか?
日産自動車 山崎:
個人的な考えになりますが、「マズローの欲求5段階説」がありますよね。この説の中で、私は特に上位に位置する「自己実現欲求」を追求できるような、成熟した次元の組織に成長してほしいと考えています。
そのためには、最近世の中では「心理的安全性」などが叫ばれていますが、まず低次の欲求である「安全欲求」をしっかりと満たすことはもちろん、「所属欲求」、「承認欲求」などの段階も一つずつ満たしていく必要があります。そして最終的には、より上位の成熟した人格者が集まる組織を目指していきたいと思っています。
こうした環境が整わなければ、真のワークライフバランスは実現しないと考えています。これを実現することが、私の大きな目標です。
JMAC 丹羽:
それは素晴らしいですね。とても次元の高い目標を掲げていらっしゃることがよくわかりました。
■JMACへの期待をお聞かせください
JMAC 丹羽:
インタビューもいよいよ終盤に近づいてまいりましたが、日本能率協会グループの特徴や強み、また今後の課題や期待について、率直にお聞かせいただけますでしょうか。
日産自動車 中嶋:
先ほど申し上げた通り、私たちは多くのエンジニアを抱える規模の大きな組織ですが、その運営を4人のチームで担当しています。人材育成を統括する立場にありますが、実際には私たち自身もつい最近までエンジニアをしていたメンバーであり、人材育成のプロではありません。例えばキャリアコーチの資格を取得しようとすると、かなりの時間が必要ですよね。そのため、効果的なカリキュラムや教材など、JMACさんの協力を得ながら、普段の業務を行いつつ、必要なスキルを身につけていければと思っています。
日産自動車 山崎:
現在は非常に変化の激しい時代であり、人々の価値観や働き方も同様にダイナミックに変化していると感じています。このようなトレンドを井の中の蛙の私たちにご教授いただき、私たちの活動や施策に対してさまざまなご指導をいただければありがたいと思います。また、時代に即した効果的な研修を提供していただけることにも大いに期待しています。
JMAC 丹羽:
承知いたしました。今後とも、さらに良いご支援ができるよう、力強くサポートさせていただきます。
■最後に貴社のアピールポイントについてお聞かせください
JMAC 丹羽:
このコーナーは、さまざまな企業の皆さまや就職活動中の学生さんなど、多くの方々にご覧いただいています。最後に、貴社のアピールポイントについてぜひお聞かせください。
日産自動車 中嶋:
当社は、入社後の教育体制が非常に充実していると自負しております。まず、集合研修では同期との絆を深めながら、会社生活の基本をしっかり学んでいただきます。その後、各部署に配属されてからも専門的な教育の機会が豊富に用意されています。
さらに、入社1年目だけでなく、2年目、3年目といった年次に応じた教育カリキュラムも充実しています。また、教育面だけでなく、働き方やキャリアに関する相談といったメンタリングにも力を入れています。
当社は、やりたいことにどんどんチャレンジできる環境が整っている会社だと考えています。多くの学生の皆さんに関心を持っていただけたら嬉しいです。
日産自動車 山崎:
はい、私もまったく同じです。多様で多彩なタレントが「他のやらぬこと」にチャレンジしている会社です。共感いただける方には、ぜひ一緒に働く仲間になってもらえたら嬉しいです。
JMAC 丹羽:
これほどの規模にもかかわらず、きめ細やかで素晴らしい教育体制が整っていると感じています。今後とも、貴社のさらなる発展を心より期待しています。本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。