時代に即した人材育成で
「人づくり」の伝統を次世代へつなぐ(前編)
コロナ禍も機動的に対応!
チーム一丸となって「人づくり」を支える人材開発室の取り組みとは
今年創業67年を迎える同社は、自前の研修施設を2か所保有し、常に人材育成に力を注ぐ企業である。設計、製造、施工、営業、管理など専門職種も多岐に渡り、集合研修は同社の貴重な「人づくり」の柱だったが、2020年4月に緊急事態宣言が発出され、いわゆるコロナ禍の中、オンライン研修に切り替えざるを得なくなった。当時のご苦労について、研修を企画、運営される人材開発室の皆さんに振り返っていただくとともに、時代に即した研修内容の見直し等、新たな取り組みで「人づくり」を推進する同社の人材開発についてお話を伺った。
(計2回に分けてお届けします。今回は前編です)
1955年創業。各種シャッターをはじめ、ビル用建材、住宅用建材を製造・販売する総合建材メーカーとして、製造から販売、施工、アフターメンテナンスまでを手掛ける一貫した責任体制のもとで事業を展開している。
・売上高 1,823億円 (連結、2022年3月期)
・従業員数 [平均臨時雇用者数] 4,794人[1,238人] (連結、2022年3月期)
・全国営業拠点 220ヶ所(連結328ヶ所)(2022年4月1日現在)
インタビュー
文化シヤッター株式会社
人事総務部人材開発室長 曽根 政行氏
人材開発室係長 小松﨑 慎也氏
人材開発室係長 岩田 奈々氏
人材開発室 近藤 優介氏
インタビュアー
株式会社日本能率協会コンサルティング
シニア・コンサルタント 佐伯 学
前列右から曽根室長、岩田係長
後列右から近藤さん、結城研修所に常駐されている
川井さん、落合さん
文化シヤッター株式会社 人事総務部人材開発室長
1989年4月に同社へ入社し、経理部へ配属
その後2008年4月 経理部課長を経て 2012年6月に経営企画部広報室長、
2021年4月より 人事総務部人材開発室長に着任
現職
■佐伯 学 プロフィール:JMAC
経営コンサルタントをなりわいとして今年で31年目。
これまでのプロジェクト経験を集大成して、ここ10年は経営幹部やマネジャー、
次世代リーダークラスの育成に力を注ぐ。
コンサルティングプロジェクトや実践研修、階層別研修を通じ、クライアントの
心ある皆さんと日々一緒に考え、実践している。
■貴社の「人づくり」の伝統についてお聞きします
人材開発室長 曽根 政行氏(以下敬称略):
私が人材開発室に異動してきたのは2021年の4月です。ですからまだ着任して1年半位でしょうか。どちらかと言うと私は研修をする立場と言うより研修を受けてきた時代の方が長いので、そのあたりからお話ししたいと思います。
まず正直研修が多い会社だなというのが率直な感想でした。これは私が入社してから新入社員研修であったり、階層別、例えば当社では職務遂行能力によって給与が定まる職能給が級数で体系化されていますが、資格が上がるごとに研修がありまして、とにかく研修の多い会社だなと。正直なところ研修に関しては面倒だ、億劫だなと言う風に感じていました。しかし、研修所から帰るときには新しい気づきであったり、受講してよかったなと達成感を感じていたのも確かです。
JMACシニア・コンサルタント 佐伯 学(以下 JMAC):
プログラム等を拝見しても2泊3日など結構ハードなプログラム、長期間にわたるものが多いですね。
曽根:
はい。今の立場になって感じますのは、やはり細かいところで階層別プログラムであったり、後はモチベーションを上げるための研修だったり、非常にきめ細かい研修がそろっていて、それが人づくりの伝統といいますか、当社の姿勢だと思うんです。
今お話ししたのはソフト面ですが、ハード面でも当社の会社規模でこのくらい自前の研修施設を持っているのはやはり教育に対して力を入れているからだと感じています。
JMAC:
本当にそうですね。60人くらいが個別の部屋でホテルのように受講できると言うのはなかなかない環境です。それに研修所の周りを見ても静かな場所で研修に打ち込めますね。
曽根:
やはり自前の研修施設を持っていると、自分たちが考えたスケジュールで社員の教育ができると言う点でも、そこは当社の大きな強みだと思っています。
JMAC:
おっしゃる通りです。
曽根:
当社は創業67年になりますが、その間様々な好景気や不景気に見舞われました。特に不景気の時は当然コスト削減がなされるのですが、私の記憶の中ではリーマンショックの時が一番大きなコスト削減が行われました。ですが、その時でも経営陣は教育の経費に関しては手をつけずにやってきたんです。
JMAC:
私もリーマンショックを経験しましたが、およそどこの企業も研修はなくなっていきました。コスト削減の対象になる会社が多かった中、貴社が着々と研修を実施され続けてこられたと言うのは、まさに経営の意思でしょうね。
曽根:
経営の意思という面では、各研修の冒頭に必ず、会長・社長はじめ取締役の方々にご協力をいただき、講話をいただいています。経営陣の直接の「言葉」をうけて、受講生の受講態度やモチベーションが非常に高くなっていると感じています。そして、忘れてはならないのは人づくりの「原点」と言うのは創業者である「関本亘」、「東海亭」、この兄弟が人づくりに関して相当な考えを持っていたからだと思うのです。そういった実践こそが当社の伝統、人づくりの伝統につながっているのだと感じます。
JMAC:
貴社の創業者のお二方は新しいシャッターと言う分野を切り開かれましたし、新しいモノをお客様に提供する上で会社として知識も持っていなければなりません。また、創業して3年目からアフターサービスもきちんとやっていこうと言う姿勢で、ただ作って売っていくという発想だけではなく、お客様に満足していただき長く使っていただくことを目指されたわけですね。そういう会社の考え方を社員に浸透させなければならないと、経営者が強くお考えだったのではないでしょうか。ですから創業当初から人づくりに力を入れてこられたんでしょうね。
曽根:
今の私自身があるのも、そういった研修で自分を成長に導いてもらえたからだと感謝しています。今度はそれを担う立場の人間になってその責任の重さを痛感しているところです。
■コロナ禍でのオンライン研修切り替えでご苦労された点をお聞かせください
曽根:
まずこのコロナ禍というのが2020年の4月に緊急事態宣言が発出されてからと言うことで、私がここに赴任したのが2021年の4月でしたからコロナ禍が始まってほぼ1年が経過している頃でした。ですから、おそらく私が赴任する前の1年間が1番研修の苦労があったのではないかと思います。
機材に関していうと、この研修所の1室がまるでAmazonの倉庫のようになっていまして、ここで全国にパソコンやヘッドセット、Wi-Fiルーターを発送しており、返還されてきたものを消毒するという繰り返しでした。
その後会社もコロナ禍に合わせてIT化を進めまして、各人にパソコンを持たせるようになりましたので、21年は劇的にオンラインの研修ができるような環境が整ったのです。
ですが、当社の場合、施工工事研修に関しては1年半は滞ってしまいました。当然映像等で補足はできたと思うのですが、やはり実際溶接をしたりとか、そういった研修はしばらく実施できませんでした。今やっと再開して、急ピッチで人員の育成をしているところです。
JMAC:
その間は配属されても先輩たちがフォローしてあげるなど、現場で研修の学びがなかった分をサポートしてあげていたわけですね。
きっと現場系の会社は同様の悩みを持っていたということでしょうね。
人材開発室係長 岩田 奈々氏(以下敬称略):
そんな折、佐伯先生に講義をいただいて、その時にサポート講師の方がついていてくださったので一緒にツールの使い方であるとか、サポートの仕方を教えていただけました。そこで実際にオンライン研修の進め方を学べたというのは、当社がオンライン研修をスタートするにあたり大きかったです。
JMAC:
オンライン研修を初めて受けた受講者の方が多かったと思うのですが、皆さんどんな感想でしたか。
岩田:
相当戸惑いがあったと思います。当時はオンラインツールのトラブルが起きた時の対応が私たちもわからなくて、一緒に悩んでしまって、研修の内容に集中してほしいのにそうさせてあげられないというのが一番しんどかったですね。
JMAC:
私は講師をさせていただきましたが、事務局の皆さんのサポートや情報システムの方のフォローが手厚かったので順調だったと感じています。講義の中身もきちんと伝わったように思うのですが。
岩田:
私たち文化シヤッターのオンライン研修のベースとなっているのは佐伯先生の研修なんです。
JMAC:
ありがとうございます。確かにあの時の受講者は、皆さん最初はちょっと固かったですね。でもだんだん研修の回数を重ねるに従ってちょっとずつ楽しんでいただけたかなと思います。近藤さんはいかがでしたか?
私は入社してしばらく研修がない状況だったので、私にとってはオンライン研修が研修の基準となっていました。日々研修が改善されていき、今ではすごくよくなってきていると感じているところです。
JMAC:
近藤さんはコロナネイティブとでも言うのでしょうか、入社した時からコロナ禍でしたよね。
近藤さん世代はしばらく研修を受けられなくて、常盤台の研修所でなんとなくオンラインでこうやって学ぶんだと言うところから始まって、今では人材開発室でビデオ編集もされ、商品紹介動画なども作られてご活躍されていると伺いました。具体的にどんな分野で動画を作成されているんですか。
近藤:
シャッターの商品の説明であったり、建設業法であったり、後は見積書・請求書の作成方法の動画を作成しています。
JMAC:
その動画は社員の方が日頃ネットでアクセスして見られる環境にあるのですか。
近藤:
社内のイントラネット内で常に見られるところに格納しております。
JMAC:
それはよい取り組みですね。ここ2年ぐらい貴社でも急速にデジタル化、オンラインが浸透したと言うことですね。曽根室長は振り返られていかがでしょうか?
曽根:
私が着任した2021年からの印象は、20年にできなかった研修を2021年の受講該当者にプラスして同じ研修を2回、管理職層も2回実施しました。だから計60人くらいでしょうか。通常であればいつもは30人程度なのですが、考課者の研修も2年分に相当する2回実施しまして、昨年は滑り出しから研修はオンラインが非常に多かったです。
環境面でも社内でパソコンを各自に持たせるようになったこともあり、それ以前は1回ずつ貸し出し用のパソコンを送っていたのですが、その負担がなくなったのは大きいですね。
JMAC:
だんだん現場も整備されてきたと言うことですね。確か最初の頃は事務所で研修受講用の会議室がなかなか確保できないという問題もあったように思います。最近はだいぶ慣れてこられたと言うことでしょうか。
曽根:
はい。おかげ様で、今ではかなり慣れてきましたね。
■チームワークの抜群な人材開発室。その秘訣は何でしょうか?
曽根:
まず私が人材開発室に着任してきた理由はなんだろうと考えた時、やはりこの人材開発室にいる小松﨑、岩田、近藤など各人の強み、その役割をしっかり最大限に発揮できるような環境を作ってあげることではないかと考えました。
そのためにまず自分が潤滑油の役割を担わないといけないなと。というのも、経理・広報をやってきた人間がいきなり人材開発をするわけですから、おそらく会社はそこを期待しているわけではないと私自身思ったのです。まずは私がとやかく言うのではなくて、各人が強みを発揮できるようなチーム、スタッフ全体では清掃の方も含め10名くらいにのぼるのですが、ワンチームとしてうまく回していけることを一番に心がけました。
JMAC:
曽根室長の指示で動くというよりも、一人ひとりが自主的に動かれて、フォーメーションもよくわかってらっしゃいますね。また、困ったことがあっても全員で役割を補っていらっしゃいます。そういった面は貴社の風土でしょうか。それとも人材開発室、人事総務部だからできているのでしょうか。
曽根:
そこは先生がおっしゃるように、当社の事業の特性である一貫した責任体制、そういうところが根底に染み付いているのかもしれません。それが1番最初にお話ししました、私がこれまでの研修を通して得た、自分の学びや気づきから来ているのかもしれません。
JMAC:
研修中でもオンラインながら、「この前はありがとうございました」と、営業部門の方や製造部門の方が密にやりとりをされていますよね。貴社は社員同士お互いにフォローし合う姿がすごく多いように見受けられます。
その辺、岩田さんはどう思われますか。私から見ると、フォーメーションの取り方が、命令が出ないと動かないのとは違って、サッカーやラグビーを見ているような印象を受けるのですが。
岩田:
佐伯先生の研修でも、価値観であったり、人の特性などについて扱われることが多いと思うのですが、人材開発室にいるとそういうものに触れる機会が多くあります。ですから、一緒に働いている仲間の得意分野であったり、思考の癖、行動の癖をどこか理解できているんです。なので、ここは私が動くべきだとか、ここは逆に任せた方がいいとか、そういう感覚で動けていると思います。
JMAC:
雑談を聞いていても皆さんの雑談には無駄がないですね。お互いを理解できていて、「ちょっと今Aさんはしんどそうだな」とか、「今日はこの人に任せよう」、「ここは得意分野のBさんに任せよう」とか、臨機応変に対応できている気がします。
岩田:
「ここは自分がいくべきだろうな」とか、「ここは任せた方が円滑だな」とか。そういうのがなんとなくわかるようになりました。
JMAC:
研修の仕事は定例業務だけではなくたくさんありますからね。
若手の近藤さんはどう思われますか?確か近藤さんは工場での経験も少しお持ちでしたね?
近藤:
私は人材開発室に配属された当初、一度だけ1週間ほど工場での業務を経験させてもらったことがあります。製造現場の方であったり、営業の方であったり、私が講師を行うこともあるので、様々な現場のことも知らないと伝わるものも伝わりませんから。
JMAC:
「新入社員だからわかりません」というわけにいかないですからね。その辺は自分で勉強されたり情報収集されているのでしょうか。
近藤:
やはり日々研修運営をやっていく中で、当然研修を見る機会が多いですから、その中で受講者がどういう風に働いているのか、どういう環境でやっているのかを特に気にして見るようにしています。
JMAC:
研修をただ傍で見ているだけではなく、ちゃんと受講の中身までしっかり把握して、受講者の方の意見であったり、グループ研修で何を語っているかまでしっかり見ていらっしゃる。そこが近藤さんの観察力のすごいところですね。
■若手社員として心がけておられること、また会社に期待する支援について近藤さんへお聞きします
近藤:
私が普段コミュニケーションを取る際に心がけていることは、先輩方が私の意見を若手だからと言って突っぱねるようなことをされませんので、必ず自分で思ったことはメールやチャット、口頭で伝えるようにしています。
JMAC:
近藤さんから積極的に伝えていると。
近藤:
はい。皆さんはかなりの経験をお持ちですし、いろいろ意見を出してくださるので私も若手としての意見を出さないといけないと思って積極的に発信するようにしています。
JMAC:
最近よく言われるのは、Z世代の方は指示待ち型が多いと。「教えられていません」とか「やりたくありません」ということがぱっと口に出てくることがあるとよく聞いたりするのですが、近藤さんが自分の意見を自発的に発していけるのは、近藤さんだからなのでしょうか?周りの期待を感じているからでしょうか?
近藤:
私自身こういう人材開発の仕事に就いていて、ここの仕事を任されている限りは言わなければいけない立場だと思っています。
JMAC:
なるほど。間違っているとか間違っていないとかではなくて、「私はこう思っています」と言うことを都度伝えているということですね。
近藤:
「私はこう思っているからこうやりたい」と言うふうに伝える。そうすると先輩方からも、「もっとこうした方がいいのではないか」などとアドバイスをいただけますので。
JMAC:
これは若手に限ったことではないですが、どう自分が成長できるのか、キャリアを積んでいくかと言うことが気になる世代でもあると思うのですが、この人材開発室のお仕事は入社以来担当されていてどんな感じでしょうか。人材開発で学べることとか、こういうところがちょっと他の同期のメンバーとは違う成長ができるとか、何か感じるところはありますか。
近藤:
やはり日々研修を見られるというのが1番のメリットですね。それは自分の特権でもありますし、そこからいろいろ吸収しないといけないと思っているので、さきほどおっしゃっていただいたように受講者の様子をよく見ているのもそういう理由だと思います。
JMAC:
例えば管理職の研修であればその級数にならなければ普通は受けられないのですが、近藤さんはそばで見ることができますし、主任層になられた方々がどう思っているかとか、それを管理職の方がどう思ってらっしゃるかなども分析もされていますから、世代間でお互いをどう思っているかなどを知れるのは、今の近藤さんの立場だからできることですね。
もう一つ質問ですが、次世代を担う近藤さんのような若手社員から見て、会社に人材開発支援としてこんな支援をして欲しいということや会社に期待することはありますか。
近藤:
当社の制度で通信教育を受けられるのですが、会社都合の資格だと全額会社の負担、自主都合だと半額個人負担になっています。その幅を広げていただければと思っています。例えば、自主都合でこういう資格を取りたいというものでも、資格が取れれば全額会社負担にしていただけるといった感じに、若干対象が広がるような制度があったらよいなと思っています。
JMAC:
合格したら会社が費用を負担してくれるとなると、確かに頑張れますし、資格取得に向けたモチベーションアップにもつながりますね。